イノベーションについて日米で何が違うのか。今や大きな差となって見えるが、それはわずかな差が歳月を経て積み重なった姿でもあるだろう。シリコンバレーでの長年の経験を元に日本企業と現地の橋渡しをする架け橋ベンチャー・キャピタル、Draper Nexus(ドレーパーネクサス)の取り組みを通じて、日本人、日本企業が実践すべき、イノベーションのポイントを探る。

日米の違いとは何かを
日本企業に教える取り組み

「日本と米国の違いは何だと思いますか?」。シリコンバレーを訪れる日本人の多くが口にする、ポピュラーな質問である。しかし、この素朴で漠然とした質問に答えるのはとても難しい。少し考えれば違うことだらけ。けれども、その違いの根本にあるものは、一体何だろうか。

 創造的なオフィス空間で有名なGoogleのキャンパスを散策しながら、ある日本人がこんな疑問を口にした。「広い敷地、ゆとりのある建物、食堂、レクリエーションスペース、そういったものは、要素だけなら日本企業の地方工場などにはどれもあるように思う。これだけの違いはどこから生まれるのだろう」。

 案内するWasiq Bokhari(ワシーク・ボカリ)氏はこう言った。「大きな違いがあるとは限らない。日本企業もシリコンバレー企業と同様にイノベーションをリードしていく能力があるだろう。ただ、仮に違いが1%であっても、20年積み重なれば約20%の差になる。3%の違いなら約80%。目に見える違いとなって初めて、人はその差を認識するようになるということだ。小さな違いの長い積み重ねが、シリコンバレーをユニークな存在にしてきた。わずかな強みを伸ばしていくこと、それを継続することが大切である」。

 その1%の違いには何があるのだろうか。シリコンバレーに人材を派遣する多くの日本企業は、目に見える違いを自社にもたらすことを意図している。けれども、1%×20年で積み重ねられた違いであれば、短期間で一気に追いつくのは大きなチャレンジだ。そんななか、目に見える成果を引き受けつつ、20年後のための1%の違いを日本企業にもたらそうとする取り組みが、シリコンバレーで長く活躍するベンチャーキャピタリストの中に増えつつある。

 彼らは日米架け橋ベンチャーキャピタルと呼ばれる。投資のためのファンドを日本企業からの出資で構成し、シリコンバレー流のノウハウで運用、金融的なリターンを出すほか、シリコンバレーのイノベーションに関するコミュニティーへのアクセスを提供し、出資企業の新しいビジネスへの挑戦を直接的にサポートする。

 さらに、そうした目に見えやすいメリットに加えて彼らが提供するものが、出資元の日本企業などに対して、シリコンバレーと日本の1%の違いを伝え、教育し、20年後の違いを生み出すことである。

成功するスタートアップには
歯を食いしばる根性(GRIT)がある

日米のイノベーション力の格差をどう克服するかDraper Nexusメンバーと同社のビジネスアクセレレーションプログラム参加者@シリコンバレー(提供:Draper Nexus)

 シリコンバレーと東京の双方に拠点を置くDraper Nexus(ドレーパーネクサス)は、代表的な日米架け橋ベンチャーキャピタルのひとつだ。2011年に立ち上げた1号ファンド、続く2015年の2号ファンドを合わせた総額は$200M(約210億円)にのぼり、創業初期の、シードやアーリーステージと呼ばれるスタートアップへの投資を行う。1号ファンドからはIPOとM&Aを合わせて8件のイグジットに成功している。

 成功するスタートアップは何が違うのか。同社マネージング・ディレクターの北村充崇氏は次のように語る。「投資を行う際に標準的にチェックする項目というものはありますが、そうした数字など客観的に評価できる項目以外にも、成功するスタートアップが持っている要素はあるはずです。例えばGRIT(グリット)。これは歯を食いしばって頑張る、根性のような意味の言葉です。GoogleやSkypeなど現在は大手となった企業も、創業当初、最初の投資家からお金をもらうまでに数十回以上、Googleの場合には350回ものプレゼンテーションを繰り返しています」。