微回復に転じたオフィス空室率。だが、市況の本格回復まではほど遠い(写真と本文は関係ありません)
悪化の一途だったオフィス空室率が“微回復”してきた。オフィス仲介会社のビルディング企画の調査によると、8月の東京主要5区(中央区、千代田区、港区、新宿区、渋谷区)の平均空室率は9.41%。7月から0.2ポイント下落し、2ヵ月連続で空室率が下がった。主要5区すべてで下がったのは、じつに4年5ヵ月ぶりだ。
大型のオフィス移転が相次いでいることが空室率の回復につながった。1000坪以上の新規床の契約が集中しており、たとえば、前田建設工業が本社建て替えのため住友不動産猿楽町ビルに、ジャフコが大手町ファーストスクエアにそれぞれ移転を決めた。
だが、本格回復にはほど遠い。移転元のビルの募集はまだ始まっておらず、空室率回復は一時的なものと見たほうがよい。それに、今回相次いでいるオフィスの移転は、もともと予定されていた案件が、賃料相場の下落に合わせて集中したものだからだ。
5区の1坪当たりの平均募集賃料は2年連続で下落し、8月には2万0895円と最安値を更新した。実質的には1万円台で成約しているビルも多いと見られる。「ビルオーナーが空室を埋めるために、賃料を下げてテナントを獲得する動きが急増している」(須藤浩之・ビルディング企画執行役員)からだ。一定期間、賃料を無料にするビルも増えている。
需給軟化も目前に迫る。森トラストの調査によると、都内新規オフィス床供給量は、2010年までの3年間、年間80万平方メートル以下にとどまっていたが、11年には146万平方メートルに増えるのだ。微回復の後には、さらなる市況悪化の気配が潜む。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木洋子)