明日8月6日は「広島 原爆の日」。今年5月にオバマ大統領が広島を訪問し、被爆者の森重昭さんを抱き寄せた姿は、まだ記憶に新しい。一貫して「核なき世界」を主張してきたオバマ大統領だが、果たしてその理念はどれだけの内実を伴っていただろうか?
人気ジャーナリスト・櫻井よしこ氏の最新刊『凛たる国家へ 日本よ、決意せよ』の中から紹介していこう。

誰もが感動した
オバマ氏と森さんの抱擁

櫻井よしこ(さくらい・よしこ)ベトナム生まれ。ハワイ州立大学歴史学部卒業。「クリスチャン・サイエンス・モニター」紙東京支局員、アジア新聞財団「DEPTH NEWS」記者、同東京支局長、日本テレビ・ニュースキャスターを経て、現在はフリー・ジャーナリスト。
1995年に『エイズ犯罪 血友病患者の悲劇』(中公文庫)で第26回大宅壮一ノンフィクション賞、1998年には『日本の危機』(新潮文庫)などで第46回菊池寛賞を受賞。2007年「国家基本問題研究所」を設立し理事長に就任。2011年、日本再生へ向けた精力的な言論活動が高く評価され、第26回正論大賞受賞。2011年、民間憲法臨調代表に就任。
著書に『論戦』シリーズ(ダイヤモンド社)、『「民意」の嘘』(花田紀凱氏との共著、産経新聞出版)、『日本の未来』(新潮社)など多数。

2016年5月27日、オバマ米大統領の広島訪問のテレビ中継に見入ってしまった。大統領が被爆者の森重昭さんを原爆慰霊碑の前で抱き寄せた姿には、誰しも感動したことだろう。原爆を投下した国とされた国、その2つの国の思いを背負った2人の人物が、71年後に思わず知らず、歩み寄り、抱き合った。

その瞬間、両氏の胸にはすべての摩擦も憎しみも超えた、人間としての共感が生まれていたに違いない。とりわけ森さんのこれまでの努力を思えば胸に迫るものがある。森さんは広島で被爆し亡くなった12人の米兵について、丹念な調査を重ねてきた人物である。

ノンフィクション作家の門田隆将氏が指摘しているが、森さんは原爆の調査をライフワークとし、米兵の捕虜について一人一人の名前と遺族を特定し、アメリカの遺族とも連絡をとってきた。

日米両国民のこのような心の通い合いは、日米両国がより強い絆を築き、より高い新たな次元に入ったことを示している。私はそのことを大いに評価する。

しかし、しばらくして考え始めた。果たしてこれでよいのか、と。その思いはおのずとオバマ大統領の広島訪問の意味を、その直前に行われた大統領スピーチと重ね合わせて考える作業につながった。

「私の国のような核保有国は恐怖の論理から逃れ、核兵器なき世界を追求する勇気を持たなければならない」
「広島と長崎は核戦争の夜明けとしてではなく、道徳的な目覚めの始まりとして知られるだろう」

オバマ大統領が発したメッセージの主眼は核廃絶にある。周知のように氏は2009(平成21)年4月、チェコのプラハで核なき世界を目指すと演説し、その理念ゆえにノーベル平和賞を受賞した。2期8年の間に、では、氏はどれだけ核廃絶に向けての実績を残しただろうか。