ピクサーのクリエイティブは、
「技術」ではなく「人」への深い理解から生まれる

 音楽や映画の世界でも視聴者との協力は重要だ。ピクサーのエンジニアでアカデミー賞を受賞したロブ・クックは、観客は確かによい作品をつくるうえで重要な役割を果たしていると言う。

「誰にだって創造性があるし、そこに限界はありません。しかし、技術的な開発の仕事をしていると、有益なものや影響力のあるものを創造するという本来の目的から大きく逸れてしまうことがある。アイデアが浮かんで『これぞまちがいなく大ヒットだ』と確信しても、実際につくってみると『だめだ、想定した顧客層にはほとんど効果がなかった』とわかるものなのです」

人の好みはさまざまなので、顧客志向の平均をとっても適切な選択はできない。この難問を解く公式は存在しない。仮にヘンリー・フォードが顧客調査を行っていたら、もっと速い馬が欲しいという要望を受けたことだろう。

 たとえば、自動車の衝突事故に備えた安全策についてアイデアを問われたとしよう。エアバッグがなかった時代、どれだけの一般消費者がハンドルから風船が飛びだして衝撃を吸収するというアイデアを提案できただろう。これは直感からは生まれそうにない斬新な発想だ。それでも、多くの人の意見を深いレベルで理解しようと努めるべきだ。それは、ユーザーが求める機能の一覧表をつくるのとはわけがちがう。「人々の欲求の本質を理解し、それに応えるものを提供すれば、すべてがぴったりくるのです」とクックは言う。(同書234-235ページより抜粋)

 ユーザーが本当に望むものを、まだ言語化できていないレベルまで「深掘り」し、それを「見える化」する――。技術のすごさや、アイデアの斬新さではなく、あくまで「人」を中心に置く思考法こそ、今求められているのではないだろうか。

「人」を中心に置く思考法をより詳しく知りたい方は、『「考える」は技術』8章をご覧ください(構成:編集部 廣畑達也)