平日は都会で働き、週末は田舎で過ごす。東京生まれ、会社勤め、共働き、こども3人。「田舎素人」の一家が始めた「二地域居住」。田舎で出合った生き物を都会の家に連れ帰り、こどもとともに育ててみたら……。自然が一家に教えてくれたこととは?二地域居住の新しいバイブル『週末は田舎暮らし』から、一部を抜粋して紹介する。
生きものたちとの二地域居住
東京と南房総の往復メンバーについて、前でちょっと触れましたが、その中でもっとも印象深い期間限定メンバーは、3羽のキジでした。桃太郎じゃあるまいし、ネコにキジにサル(みたいなこどもたち)を車に乗せて移動することになるなんて誰が想像したでしょう。
春、草刈りの手伝いに来てくださっていた西田さんが「ちょっとちょっと」と手招きするので駆け寄ると、まんまるの卵が14個、草むらに置かれていました。卵の親はバサバサッと飛んで逃げてしまったのです。
キジの親は卵から一度去るともう再び帰ることはない、と知っているこどもたちは「飼う!ぜったい飼う!だってかわいそうじゃないか!」の大合唱。西田さんは「チャボに抱かせれば孵えるんだけどねえ」なんて言いながら、ニコニコ見守っています。
さあ、どうするか。生かすか殺すかはわたしの判断。
だとしたら、生かしたいと思ってしまうじゃありませんか!
でも、それからが大変でした。
卵を人間が孵すなんてどうすりゃいいか分からない。タオルに包んだ卵を温めながら東京に持ち帰ると、夫が孵化作業についてインターネットで調べてくれました。
卵の温度の管理に加え、時々卵をひっくり返す「転卵」という作業が必要と知って驚くと、「ママがいよいよ卵まで抱くようになったぞ!」と夫はニヤニヤ。
「ママ、目覚まし三時間おきにかけた?」「転卵忘れるなよ」という家族の無責任な激励を受け、なぜかわたしが卵を手元に浅い眠りにつくことになりました。好きでやっているとはいえ、こども三人育てるのも大変なのに、卵まで温めるってなによ、と思いながら。
朝、転卵と加温で朦朧としながら起きたわたしの心には、不安が立ちこめていました。孵化、孵化、と親鳥を気取っているけれど、こんな管理で本当に卵が孵るのか?わたしの管理が悪くて死なせてはいないか?この丸い命をじっと見つめても、それらは黙して語らず。まだ生きてるの?大丈夫なの?不安は募る一方です。
結局、北千住にある鳥専門のペットショップでは、孵化まで卵を見てくれるらしいという情報を見つけ、ここならわたしよりも確かなはずと遠路卵を持って行きました。
孵化の知らせを待つ間、わたしは二つの課題をクリアしなければなりませんでした。
ひとつは、東京の家での飼育場所確保の問題。「キジは大きな禽舎(きんしゃ)でないと育てられない鳥」らしいのです。迷った挙句、ダメ元で義母に相談しました。もしキジが孵化した場合、数年前に亡くなった義祖母の和室を一時的に「キジ飼育部屋」にしてもいいでしょうか、放し飼いになると思いますが、いいでしょうか、と。
言いながらも、わたしってば、なんて無茶苦茶なこと言っているんだ、と自分にツッコミを入れずにはいられません。
しかし義母は「キジに、和室を…… ま、まあ、いいですよ」と言いながら許可してくれました。動物好きの義母に感謝してもしつくせません。けれど実際、「キジが生まれてしまうかもしれなくて!」と明らかに嬉しそうなわたしを、一体どんな嫁だと見ていたのでしょうか。
さて、もうひとつは、もっと根本的な問題です。「キジという鳥を飼っていいものか」ということ。鳥獣保護法違反になりやしないか、直接権威に聞いてみようと思い立ち、ウェブで見つけた「全日本雉類研究会」の事務局に直接連絡して相談することに。
「あのー、突然ですみません。わたくし、普段は東京に住んでいるんですけど、南房総にも家があって、そこでキジの卵を拾ったという者ですが、教えていただきたいのです。キジって育ててもいいのでしょうか。育てられるものでしょうか」
この意味不明で唐突な電話に、事務局の伊藤正さんは親身に対応してくださいました。
「3週間ほど温度管理などしっかりやれば、あとはちゃんと育ちますよ」「キジを飼うことの許可はね、放鳥せずに飼うと決めたら考えればいいですよ。誰かに何か言われることがあったとしても、経緯を話して対応を考えれば大丈夫。わたしも行政の仕事をしていますから、そのあたりはよく分かっていますから」とのこと。
おお!権威からお墨付きをいただけた。