平日は都会で働き、週末は田舎で過ごす。東京生まれ、会社勤め、共働き、こども3人。「田舎素人」の一家が始めた「二地域居住」。もっと自然の中で子育てをしたい!という思いから始めた特異なライフスタイル。そんな暮らし方はこどもにはどんな影響を与えたのか?二地域居住の新しいバイブル『週末は田舎暮らし』から、一部を抜粋して紹介する。

カエルの調律

 ニイニが小学生のときのこと。

 用事があって学校に行くと、クラスの子が向こうから歩いてきました。あらナントカ君、とあいさつをすると、その子は教室に走って行って、「チバー、チバ王!おかあさん来てるぞ!」と叫びました。

 チバって、チバ王って、うちの子のこと?

 親の実家が千葉だからって「チバ」と呼ばれている子がいるでしょうか。旧軽井沢に別荘がある子を「キューカル」と呼んだりもしませんよね。南房総での暮らしはニイニという人間に食い込み、同化し、モロに「チバ」と呼ばれてしまう特徴となっていることを、そのときはじめて知りました。

 自分のお腹から出てきたとはいえ、こどもたちはいつの間にか自分の生活を確立し、別人格として社会生活に身を置いています。それぞれが、それぞれの持ち場で暮らしている平日の出来事、そこから形成される感情や、発展していく彼らの性質については、親であっても把握し切れないのが実情です。

 いや、「チバ王」と呼ばれていることが本当に、田舎暮らしを楽しんでくれている証拠かどうかだって分かりません。そうだといいな、という親の憶測です。たまに、知っているようで知らない息子の日常に触れると、学校にいる10時間、この子はどんなことを体験し、何を思い、どこまで家に持ち帰っているんだろう、と思いを巡らせることになります。

 わたしもわたしで、仕事中は仕事顔で社会生活を送っています。タスクの山と闘う真剣勝負の平日は、家での夕食時もその余韻で、きっとちょっと険しい顔をしていると思います。

 働くママはみんな、どうしているんでしょうね?

 仕事でドカンと問題を抱えたときでも、余裕の笑顔で夕食に臨んでいるのでしょうか?

 わたしはぜんぜん人間が練ねれていないのでテキメン、顔に出るようです。「ママどうしたの、なんかあったの?言ってよ!」と詰問されることもあります。ハッまずい、ごめんと心の奥底では詫びていても、口からは「なんにもないわよ、いいから食べて!」というムスッとした言葉が飛び出す始末。

 この食卓にはママの笑顔はないのかい?ママがそんなんで家族は幸せかい?と自己嫌悪スパイラルに陥ります。