無能なマネジャーは
情報格差で優位性を保つ「壊れたルーター」

 評価基準のことに触れたついでに、スキルについても述べておきましょう。エンジニアを例として考えてみます。

 エンジニアが業務を遂行するために必要なスキルには、どんなプログラミング言語が扱えるか、ネットワークやデータベースなどを適切に構築できるか、といった技術的なスキルに加えて、プレゼンテーション能力やコミュニケーション能力などの「ソフトスキル」があります。各スキルのレベルを見て、評価や昇進を判断することになるわけですが、欧米に比べると従来型の日本企業では、エンジニア職においてもソフトスキルを評価しがちだといえるでしょう。

 エンジニアと同様、マネジメントでも業務を遂行するのに必要なスキルの軸があるはずです。しかしそのマネジメントに必要な能力を確認しないまま、技術者がある職位に達するとマネジャーとされてしまうのは、多くの日本企業の課題だと思います。しかも、外部へ業務を丸投げしているので技術力も身に付いていないという技術者が、調整能力や交渉力の高さだけで昇進してしまうことも多いのです。

 こうした現場スキルもマネジメント力もない無能な人が昇進すると、最悪の事態に陥ります。こういう場面ではたいてい、コミュニケーションスキルはないけれども、ほかのスキルが高い誰かが尻拭いをしているのです。

 こうした光景は、システムインテグレーターが参加する開発現場にありがちな話ですが、ほかでもいろいろな企業で起きていることだと思います。仕事に必要な能力の高さよりも「立派な社会人」であることが求められ、上司に言われるままソツなく仕事をする人が昇進することで、現場は大変なことになっています。こういうタイプのマネジャーが自分の必要性をアピールし、価値を作るためにやることは「情報格差を作ること」です。これが業務のスムーズな進行を妨げるボトルネックや遅延の要因となります。

 上から流れてきた誰もが知っていていい情報を、すぐに下に流さずため込むのは、情報流通を遅延させる害悪でしかありません。私はこうしたマネジャーたちのことを「壊れたルーター」と呼んでいます。ルーターは、ネットワークを行き来するデータが適切なルートを通って、しかるべき行き先へすばやく転送されるようにする装置です。ダメなマネジャーは、壊れたルーターのように必要な情報の流れを阻害する存在なのです。