かわいがっていた部下が突然、会社を辞めると言い出した。理由が全くわからず、引き止めても部下の心は動かない……。こうした状況に陥ったことのあるリーダーは少なくないだろう。人材不足が叫ばれる中、優秀な部下に辞められるのは、会社としても大打撃。また、部下に辞められたら自分の評価も下がるのではないかと、内心ではビクビクしている人もたくさんいるはずだ。では、なぜ部下は突然辞めようとするのか、上司はその退職に打つ手はないのか。実は、そこには上司・部下の両方が見逃している非常に重要なポイントがあった。(アイランドクレア代表取締役 吉田行宏)
部下の訴える退職理由は、ほとんどが「嘘」?
ある会社の部長が肩を落として、私のところに相談に訪れた。
「退職面談の時、彼は病気の親御さんの看病があるので帰郷して、資格取得の勉強をしながら地元で働くと言っていたんです。それなのに、結局は、東京でうちと似たような業種の会社に就職したことが分かりました。彼は私に嘘を言って辞めたのです」
その部長はとてもショックを受けたようだが、私に言わせると、このようなケースは珍しいことではない。これまで多くの企業の人材教育などに関わってきたこともあり、私のところには、組織や人材に関する相談を持ち込む経営幹部も多い。それらの経験をもとに、まず、部下が辞めてしまう理由を考えてみよう。
部下が上司に打ち明ける「辞める理由」は人によってさまざまで、
・ベンチャーで幅広く挑戦したい
・大きな企業で専門性を磨きたい
・家族に看護や介護が必要になった
・体調を崩したので、自分のペースでできる仕事がしたい
・ほかの業種にチャレンジしたい
・今の給料では生活が維持できない
・会社のミッションやカルチャーが自分と合わない
など、その人なりの理由を述べて辞めていく。しかし、どのような理由にせよ、実際の退職後の行動が退職理由と相反する場合が少なくない。
しかし、彼らが故意に嘘をついていたのかというと、必ずしもそうとは言い切れない。前述したようなものも確かに理由の1つではあるだろうが、どれも決定的な要因には至らないと言ったほうが正しいだろう。
その証拠に、退職希望者やその予備軍となる社員たちは、退職理由を1つではなく、合わせ技にして上司に語ることが多い。本人自身が「こんなにいろいろ理由があるから仕方ない」と、自分を正当化しているのだ。