天才数学者たちの知性の煌めき、絵画や音楽などの背景にある芸術性、AIやビッグデータを支える有用性…。とても美しくて、あまりにも深遠で、ものすごく役に立つ学問である数学の魅力を、身近な話題を導入に、語りかけるような文章、丁寧な説明で解き明かす数学エッセイ『とてつもない数学』が6月4日に発刊。発売4日で1万部の大増刷となっている。
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「九九」を暗記させて、電卓の自由な使用を禁止しているままでは、日本の数学の学力はあがらないPhoto: Adobe Stock

九九を暗記する国は少ない

 日本では小学校2年生のときに九九を勉強する。九九の暗記は算数の最初の壁だと言ってもいいかもしれない。

 リズムと語呂合わせを利用して「いんいちがいち、いんにがに……」と覚えた記憶が誰しもあるだろう。しかし、1×1から9×9までを強制的に暗記させる国は、世界的に見ると決して多くない。

 たとえば英語圏の多くの国では、12×12までの掛け算がまとめられたタイムズテーブル(times table)と呼ばれる表を確認しながら掛け算を勉強する。

 timesというのは「掛ける」という意味である。アメリカやオーストラリアなどでは、この表を何度も使っているうちに自然と覚えてもらえればそれでいい、というスタンスらしい。

 ちなみになぜ12×12までかと言うと、1フィート=12インチだったり、1ダース=12個だったり(既に廃止されてしまったが、かつてはイギリスのお金の単位は1シリング=12ペンスだった)、生活の上で使われることの多い十二進法に対応するためである。