天才数学者たちの知性の煌めき、絵画や音楽などの背景にある芸術性、AIやビッグデータを支える有用性…。とても美しくて、あまりにも深遠で、ものすごく役に立つ学問である数学の魅力を、身近な話題を導入に、語りかけるような文章、丁寧な説明で解き明かす数学エッセイ『とてつもない数学』が6月4日に発刊。発売4日で1万部の大増刷となっている。
教育系YouTuberヨビノリたくみ氏から「色々な角度から『数学の美しさ』を実感できる一冊!!」と絶賛されたその内容の一部を紹介します。連載のバックナンバーはこちらから。
累乗は爆発的に増加する
戦国時代の武将豊臣秀吉は非常に頭の切れる人物であったが、読み書きはあまり得意でなかったため、経験談や学問についての話を聞かせてくれる「御伽衆」と呼ばれる家臣が多くいた。その中の1人である曽呂利新左衛門は、刀の鞘を作る名職人である一方で、落語家の始祖とも言われ、とんちの効いたエピソードをいろいろ残している。
秀吉はある日、新左衛門を褒めて褒美をとらせることにした。何がいいかと尋ねられた新左衛門は少し考えてから「初日は米1粒、2日目は2粒、3日目は4粒、4日目は8粒というふうに、1粒から始めて、1ヵ月間、前日の倍の数の米粒をください」と申し出た。これを聞いた秀吉は「なんだそんなものでよいのか」と安請け合いをする。ところが日を追うごとにとんでもない約束をしてしまったと秀吉は困り果てることになった。
実は、新左衛門の申し出通りに米粒を与えると、2週間経ってもようやく8192粒で1合(約6500粒)を少し超える程度にしかならないが、1ヵ月後にはなんと5億3000万粒余りとなって、およそ200俵もの米を与えなくてはいけない。1俵は約60キログラムだから、200俵(12トン!)というのはとてつもない量だ。途中でこのことに気づいた秀吉は慌てて別の褒美に変えてもらったとか。
新聞紙を42回折ると……
「2×2×2」のように同じ数を繰り返し掛けることを累乗といい、累乗は掛け合わせる回数が増えると途中から爆発的に変化することがわかっている。
たとえば、新聞紙を折ったときの厚さを計算してみよう。新聞紙の厚さを0・1ミリメートルとすると、n回折り曲げたときの厚さは0.1×2^n(ミリメートル)となる。これにあてはめて計算すると、10回折ったときの厚さは10センチメートル程度で、14回で成人女性の平均身長を少し超えるくらい(約164センチメートル)だ。
さあ、この後が急激となる。30回で東京~熱海間の距離程度に到達し(約107キロメートル)、驚くことにわずか42回で月までの距離(約38万キロメートル)を超える! もちろん、実際に紙を折る時には外側の紙が伸びる長さに限界があるので、こんなにたくさん折ることはできない。しかし累乗が途中から爆発的に大きくなるイメージはつかめるのではないだろうか?