「砂漠に文明ができた理由」を150字以内で説明すると?

地理とは「地球上の理(ことわり)」である。この指針にのっとり、現代世界の疑問を解き明かし、ベストセラーとなった『経済は地理から学べ!』。著者は、代々木ゼミナールで「東大地理」を教える実力派、宮路秀作氏。また、日本地理学会企画専門委員会の委員として、大学教員を中心に創設された「地理学のアウトリーチ研究グループ」に参加し、地理学の啓蒙に励んでいる。2022年から高等学校教育で「地理総合」が必修科目となることが決定し、地理にスポットライトが当たっている。今、ビジネスパーソンが地理を学ぶべき理由に切り込んだ。(取材・構成/イイダテツヤ、撮影/疋田千里)

なぜ砂漠に文明ができたのか?

宮路秀作(以下、宮路):2017年度、大阪大学の前期試験にて、こんな地理の問題が出題されました。

「メソポタミア文明やインダス文明、エジプト文明は砂漠にできた文明である。なぜ、砂漠にこうした文明ができたのかを論じよ」

──これは地理の問題…なんでしょうか?

宮路:これが「地理」で出題されていることが非常に興味深いですよね。メソポタミア文明やインダス文明と聞くと、すぐに「歴史の問題」と思いがちですが、地理的観点から見てなぜ砂漠に文明が起こったのか。そこを論述させるところが素晴らしいです。

 問題の解答はざっくりといえば、下記のようになります。

 これらの文明が興った地域は、本来は乾燥気候であるため水利には恵まれない。しかし大きな川が流れていて、その水を使って灌漑農業が可能になる。穀物が栽培できれば、増加する人口を支えるだけの食料供給ができる。加えて、川が流れていると上流と下流の往来がしやすくなって交易が盛んになる。

 このように「気候」や「農業」、そして「交通」の話が出てくるわけです。この問題を見たとき、ものすごくいい問題だなと感動しましたよ。

 心無い人は「これは歴史の話でしょ!」と言いますが、「歴史と地理は車の両輪」であり、双方の知識や視点があるからこそ、さまざまなことを深く理解したり、考察することができます。それを証明している良問ですよね。

──宮路さん自身がそこまで地理に興味を持つようになったのは、何がきっかけだったのでしょうか。

宮路:正直言うと、私は中学までは地理が嫌いだったんです。「山や川の名前を覚えて、何になるの?」と思っていました。でも高校に入って、地理の先生が「地理はこうやって勉強するんだよ」と学び方を教えてくれたんです。それが大きかったですね。

──「地理の学び方」とはどういうことですか?

宮路:イギリスという国がありますよね。イギリス、つまりグレートブリテン島は中央部分にペニン山脈という山脈が縦断しているんです。緯度的には偏西風地帯なので、西から風が吹いてきます。

 イギリスの西はアイルランドで、そのさらに西は海なので、吹いてくる偏西風は当然湿った風となって吹きます。その風がペニン山脈にぶつかるので、山の西側は風上側となって雨が多いんです。反対に、風下側となる東側は雨が少ない。いわゆるフェーン現象が起こっています。

 そうした背景があるので、グレートブリテン島の西部は湿度が高く、毛糸とか、羊の毛は扱いづらい。そのため、綿花を栽培して綿織物工業が盛んになっていくんです。一方の東部は、逆に羊の飼育が盛んに行われています。