「名犬ラッシー」を地理視点で見ると?

宮路:世界史を勉強していると、15世紀末から16世紀初頭にかけて「第一次エンクロージャー運動」が起こったという話が出てくるんですね。

 簡単に言うと、「羊の毛は儲かるので、農地がどんどん羊を飼育する牧場や毛織物を作る工場に置き換えられ、農地で働いていた人が賃金労働者になり、貧しくなっていく」という話です。

 そんな歴史的な出来事も、地理の背景を知っているとものすごく納得感がありますし、リアリティが増しますよね。

 ただ「イギリス西部は綿織物、東部は毛織物」と単純暗記するのでなく、「地理とは、一連の物語を理解していくこと」なんだと、そのときに教えてもらったんです。それはものすごく大きなことでした。

──たしかに、一連の物語として語られると、ペニン山脈や偏西風から始まる地理の話と世界史の出来事までがすごく腹落ちしますし、おもしろく学べますね。イギリスといえば、『経済は地理から学べ!』の中に、「イギリス料理がマズいと言われる理由」という話があって、面白かったです。

宮路:本当の地理の学び方を多くの人に知ってほしいです。先ほどのように、できあがった物語全体を地理学では『景観(けいかん)』と言います。景観を理解することが、地理を勉強することだと、私はよく言っています。

 余談ですが、昔「名犬ラッシー」というアニメがあって、主人公が羊の群れから犬を探してくるんですね。

 そのシーンを見たとき「この話の舞台ってイギリスの東部じゃないかな?」と思って調べてみたら、やっぱりそうだったんですよ。他にも主人公の父親が炭鉱で働いているなど、「名犬ラッシー」は地理的描写がしっかりしています。

 地理的背景やそこに至る流れを物語として理解しておくと、そんなふうにいろんな見方ができておもしろいんですよ。

 だからこそ、もっと多くの人に地理を学んで欲しいと思っています。

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第1回目 「日本は世界一の超高齢社会」解決のヒントはM字カーブにあり

「砂漠に文明ができた理由」を150字以内で説明すると?宮路秀作(みやじ・しゅうさく)
代々木ゼミナール地理講師、日本地理学会企画専門委員会委員
鹿児島市出身。「共通テスト地理」から「東大地理」まで、代々木ゼミナールのすべての地理講座を担当する実力派。
地理を通して、現代世界の「なぜ?」「どうして?」を解き明かす講義は、9割以上の生徒から「地理を学んでよかった!」と大好評。講義の指針は、「地理とは、地球上の理(ことわり)である」。
生徒アンケートは、代ゼミ講師1年目の2008年度から全国1位を獲得し続けており、また高校教員向け講座「教員研修セミナー」の講師や模試作成を担当するなど、いまや「代ゼミの地理の顔」。2017年に刊行した『経済は地理から学べ! 』はベストセラーとなり、これが「地理学の啓発・普及に貢献した」と評価され、2017年度の日本地理学会賞(社会貢献部門)を受賞。大学教員を中心に創設された「地理学のアウトリーチ研究グループ」にも加わり、2021年より日本地理学会企画専門委員会委員となる。
またコラムニストとして、「Yahoo! ニュース」での連載やラジオ出演、トークイベントの開催、YouTubeチャンネルの運営、メルマガの発行など幅広く活動している。著書に『経済は地理から学べ! 』(ダイヤモンド社)、『目からウロコのなるほど地理講義(系統地理編)・(地誌編)』(学研プラス)などがある。
「砂漠に文明ができた理由」を150字以内で説明すると?