「コロナ自宅死」を救う医療体制の刷新戦略写真はイメージです Photo:PIXTA

全国で新型コロナウイルスの感染者が急増し、政府は重症化リスクが低い感染者について入院ではなく自宅療養を基本とする新方針を打ち出した。自宅療養中に容態が急変して亡くなった患者の事例が報道されていることもあり、人々の間に不安が広がっている。一人でも多くの命を救うために、医療ができることはもうないのか?コロナ対応現場の最前線で命と向き合う救急専門医・集中治療専門医の筆者が、国内外の事例や研究結果などのファクトと現場の知見に基づいて緊急提言を行う。(名古屋大学大学院医学系研究科救急集中治療医学分野医局長、集中治療専門医、救急科専門医 山本尚範)

コロナ診療体制は
全国でいかに進歩してきたか

 新型コロナウイルスへの診療体制は全国で少しずつ進歩してきた。大阪府、札幌市、沖縄県で、救急搬送先が決まらない際の「入院待機ステーション(酸素ステーション)」が導入されている。また、大阪府では重症患者の容体安定化とCT検査を組み合わせた「トリアージ病院」が導入された。コロナ専門病院を設置する自治体も出ている。

 さらには、救急車のたらい回しを防ぐため、コロナ患者の受け入れ病院を日ごとに指定する輪番制を始めた医療圏もある。血中酸素飽和度を計測する「パルスオキシメーター」の家庭への配布や訪問診療体制の整備も、各地で進んだ。在宅で酸素吸入が行える「酸素濃縮装置」の貸し出しや、重度のコロナ患者の致死率を下げたとされるステロイド薬の外来処方、肺炎精査のCT外来をする地域もある。

 高齢者施設や医療施設のクラスター対応チームが整えられ、ワクチン接種で65歳以上の高齢者の多くが重症化から守られている。

 しかし東京では感染者が急増し、救急搬送が困難になって入院のハードルが上がった。菅義偉首相は「入院基準の見直し」に言及したが、世論は強く反発した。欧米先進国と比べ、日本の新型コロナウイルス感染者数に対する入院患者数は確かに多い。入院できた患者さんは手厚いケアを受けられる一方、新たに発生した中等症や重症の患者さんが入院できず、自宅での容態急変や搬送中に死亡する悲劇も起きている。どうすればよいか。