写真:日本製鉄、東京製綱日本製鉄は、今年3月に敵対的TOBで取得したばかりの東京製綱株を、早くも放出すると発表した 写真:日刊工業新聞/共同通信イメージズ、アフロ

鉄鋼各社が絶好調決算をたたき出す中、業界首位の日本製鉄に“珍事”が発生した。敵対的TOBで取得したばかりの東京製綱の一部株式を早くも売却するというのだ。日本製鉄に何があったのか。(ダイヤモンド編集部 新井美江子)

鉄鋼業界は需要が本格回復
久方ぶりの好況下での“珍事”

 8月3日、日本製鉄が、敵対的TOB(株式公開買い付け)まで行って引き上げた東京製綱の出資比率を、再び引き下げると発表した。東京製綱の一部株式を売却し、19.9%の出資比率を10%以下と、TOB前の水準に戻す。

 敵対的TOBが成立したのは、今年3月のことだ。それからたった5カ月で出資比率を元通りにすると宣言したのだから、ある種の“珍事”である。

「在庫が逼迫している」。鉄鋼幹部がそう語るように今、鉄鋼業界は活況を呈しており、業績自体はすこぶるいい。8月12日、日本製鉄と神戸製鋼所に続いてJFEホールディングスが2021年4~6月期の決算を発表したのだが、高炉3社は共に「本業」である鉄鋼事業が久方ぶりに好調だった。

 新型コロナウイルスの感染拡大によって落ち込んでいた各国経済が持ち直してきたことで、鉄需要が本格回復。鉄鋼市況が上向き、販売価格も上昇した。鉄鉱石や石炭といった原材料は相変わらず高騰したままだ。だが、「もうかる製品」に生産を寄せることでマージンの改善が徐々に進んでいる他、在庫評価差も利益を押し上げる。

 中でも、日本製鉄はここ1~2年、高炉などの設備の恒久休止を相次ぎ決断し、固定費の削減による損益分岐点の改善に動いている。そのかいもあって、22年3月期の通期の事業利益は6000億円に上る見込みだ。実現すれば、12年に新日本製鐵と住友金属工業が統合し、新日鐵住金(現日本製鉄)が誕生して以降の過去最高益を、7年ぶりに更新することになる。

 このばら色の事業環境にケチをつけるかのように起こったのが、先の珍事である。