10人に1人といわれる左利き。「頭がよさそう」「器用」「絵が上手」……。左利きには、なぜかいろんなイメージがつきまといます。なぜそう言われるのか、実際はどうなのか、これまで明確な答えはありませんでした。『1万人の脳を見た名医が教える すごい左利き』(ダイヤモンド社刊)では、数多くの脳を診断した世界で最初の脳内科医で、自身も左利きの加藤俊徳氏が、脳科学の視点からその才能のすべてを解き明かします。左利きにとっては、これまで知らなかった自分を知る1冊に、右利きにとっては身近な左利きのトリセツに。本記事では本書より一部を特別に公開します。

「左利きは認知症になりにくい?」脳内科医が明かす意外な関係Photo: Adobe Stock

左利きは認知症になりにくい?

 人生100年時代となり、認知症はすべての人が避けては通れない人生の課題になっています。

 実は、左脳には、新しい記憶を脳に定着させる働きがあり、右脳には、記憶したことを探索する機能があると言われています[*1]

 実際に、利き手が記憶力に影響しているという研究が複数あります。Siengthaiら[*2]は、左利きの男性は言語の認知課題で優れた結果を示したと報告しています。左利きの男性は、右利きの男性よりも脳梁を通じて左脳と右脳の両脳を活発に使っている可能性があります

 一方、同研究では、左利きの女性は視覚による空間認知課題で右利きの女性よりも優れた結果を示したとしています。女性が左手を使うことで、右脳の理解系脳番地が発達しやすいことを示していると考えられます。(関連記事:最新脳科学でついに決着!「左利きは天才」なのか?

 さらに、Propperら[*3]は、左手と右手の両方を使っている人は、右利きに比べて、単語を思い出したり、これまでの生活を振り返って回想する自伝的記憶を思い出すことに優れていると報告しています。

 また、Loprinziら[*4]は、握力とエピソード記憶(出来事に関する記憶)に注目して、左利きと右利きの違いについて研究しています。その結果、利き手による違いはなかったものの、握力が低下することで、記憶を思いだせないという訴えが多くなったとしています。

 握力は、手の筋肉を鍛えることだけでなく、本書の10Pで示した手の脳番地を鍛えることで、強化することができます。握力を鍛え、両脳を使うことで、記憶力がアップすることは確かなようです左右の握力を鍛えて記憶力を強化してみましょう

(本原稿は『1万人の脳を見た名医が教える すごい左利き』から抜粋、編集したものです。本書では、脳科学的にみた左利きのすごい才能を多数ご紹介しています)

参考文献
*1:Babiloni C., Vecchio F., Cappa S., Pasqualetti P., Rossi S., Miniussi C.Functional frontoparietal connectivity during encoding and retrieval processes follows HERA model. A high-resolution study. Brain Res. Bull. 2006;68:203-212.doi: 10.1016/j.brainresbull.2005.04.019.
*2:Siengthai B., Kritz-Silverstein D., Barrett-Connor E. Handedness and cognitive function in older men and women: A comparison of methods. J. Nutr. Health Aging.2008;12:641-647.
*3:Propper R.E., Christman S.D., Phaneuf K.A. A mixed-handed advantage in episodic memory: A possible role of interhemispheric interaction. Mem. Cognit.2005;33:751-757. doi: 10.3758/BF03195341.
*4:Loprinzi PD, Franklin J, Farris A, Ryu S. Handedness, Grip Strength, and Memory Function: Considerations by Biological Sex. Medicina (Kaunas).2019;55(8):444. doi:10.3390/medicina55080444

[著者]加藤俊徳(かとう・としのり)
左利きの脳内科医、医学博士。加藤プラチナクリニック院長。株式会社脳の学校代表。昭和大学客員教授。
発達脳科学・MRI脳画像診断の専門家。脳番地トレーニングの提唱者。
14歳のときに「脳を鍛える方法」を求めて医学部への進学を決意。1991年、現在、世界700ヵ所以上の施設で使われる脳活動計測fNIRS(エフニルス)法を発見。1995年から2001年まで米ミネソタ大学放射線科でアルツハイマー病やMRI脳画像の研究に従事。ADHD(注意欠陥多動性障害)、コミュニケーション障害など発達障害と関係する「海馬回旋遅滞症」を発見。帰国後は、独自開発した加藤式MRI脳画像診断法を用いて、子どもから超高齢者まで1万人以上を診断、治療を行う。「脳番地」「脳習慣」「脳貯金」など多数の造語を生み出す。InterFM 897「脳活性ラジオ Dr.加藤 脳の学校」のパーソナリティーを務め、著書には、『脳の強化書』(あさ出版)、『部屋も頭もスッキリする!片づけ脳』(自由国民社)、『脳とココロのしくみ入門』(朝日新聞出版)、『ADHDコンプレックスのための“脳番地トレーニング”』(大和出版)、『大人の発達障害』(白秋社)など多数。
・加藤プラチナクリニック公式サイト https://www.nobanchi.com
・脳の学校公式サイト https://www.nonogakko.com