職場や家庭、SNSなどで、その場の感情に任せて相手に怒りをぶつけてしまい、後悔したことはありませんか。発端はささいなことだったのに、ぶつけてしまった怒りが人間関係を傷つけ、その後、取り返しのつかない大事に発展することも少なくありません。
そんな失敗をしないために必要な、怒りをうまくコントロールして日々を平和に穏やかに過ごすコツを教えてくれるのは、精神科医の伊藤拓先生です。
20年以上にわたり、のべ5万人を診てきた先生の著書『精神科医が教える 後悔しない怒り方』から再構成して紹介します。

【精神科医が教える】つい、やってしまう人は注意! 最近、怒りっぽくなったと感じるのは、脳の機能低下を招く寝る前の習慣のせいかもPhoto: Adobe Stock
伊藤拓(いとう・たく)
精神科医
昭和39年、東京都西東京市出身。東京大学理科Ⅱ類(薬学部)卒業後に医師を目指し、横浜市立大学医学部医学科に再入学。卒業後に内科研修を1年履修した後、精神科に興味を抱き、東京都立松沢病院で2年間研修する。平成5年に医師免許、平成10年に精神保健指定免許を取得。現在、大内病院精神神経科医師。
精神科医としてこれまでの27年間でのべ5万人以上を診ている。統合失調症、気分障害(躁うつ)、軽症うつ病の分野で高い評価を得ている。

就寝前にしてはいけない!

最近は、朝から晩までスマホを手放さず、食事中やトイレの中でも「ながらスマホ」をして、一日中スマホ漬けのような生活を送っている人もいると聞きます。

ただ、夜遅くまでのスマホ使用は気をつけるべきです。なぜなら、その習慣が睡眠障害につながっていくケースがたいへん多いからです。

問題は、夜更かしによる睡眠時間の不足だけではありません。スマホ画面が放つ光はたいへん強く、夜に強い光を浴び続けていると、睡眠を誘うホルモンのメラトニンの分泌が減ってしまいます。これによって、スムーズに寝つけなくなったり、眠りが浅くなったりしていきます。

そして、睡眠時間が足りなかったりよく眠れなかったりする日が続くと、てきめんに脳のパフォーマンスが落ちるようになります。

そもそも、脳は睡眠という休息なしには働くことができません。寝不足の翌日、頭のボーッとした感じがなかなか抜けない人も多いと思いますが、それは、疲れが回復しないまま働かされ、脳の活動が全体的に停滞しているせいなのです。

睡眠という休息がとれていないと、集中力、記憶能力、学習力、意欲、創造力、コミュニケーション力などたいへん幅広い脳機能が低下します。また、感情コントロール力も低下し、突然怒り出したり泣き出したりといったように感情の抑制がきかなくなってくることもあります。

ですから、「最近どうも怒りっぽくなったな」「小さなことですぐイライラするようになったな」と感じるのは、連日夜遅くまでスマホを使って寝不足が続いているのが原因である可能性もあります。スマホのせいで睡眠が妨げられ、脳機能が低下して怒りをうまく制御できない状態に陥っている可能性もあるわけです。

私は、スマホの過剰使用から心身に不調を訴えている人には、「せめて、ふとんの中ではスマホを使わないように」とアドバイスするようにしています。スマホに依存気味の人は一気に使用時間を減らそうとしても無理なので、せめて夜、ふとんの中で使用するのをやめると、それだけでも睡眠が改善傾向へと向かい、それに伴い感情の抑制も以前よりききやすくなったということが多いのです。

スマホの使用時間が長い人は、「せめてこれだけでも」という気持ちで実践してみてはいかがでしょうか。