写真:中国電力・伊方原子力発電所の外観現在、3号機が稼働している中国電力の伊方原子力発電所 Photo:PIXTA

燃料資源が乏しく、電力危機に陥っている日本において、原子力発電所の再稼働に関する議論は待ったなしの状況だ。しかし、これを阻む「バカの壁」が存在する。そのことは、エネルギー安全保障の観点からロシアとの関係を断ち切りきれない日本の立場の弱さを生んでいる。そんな日本に対して資源大国ロシアは、ほくそ笑んでいるに違いない。(イトモス研究所所長 小倉健一)

資源貧国ニッポンのエネルギー自給率は
OECD36カ国の中で35位

 ロシアによるウクライナ侵攻と急激な円安によって、エネルギー価格が高騰している。

 資源を持たず、さらに原子力発電所を思うように再稼働できない日本のエネルギー自給率は、2019年で12.1%と非常に低い。経済協力開発機構(OECD)に加盟する36カ国中35位で、下から数えて2番目の極めて低い水準にある。

 日本は、90%近いエネルギーを輸入に頼らねばならず、エネルギー価格の高騰の影響をもろに受けていることになる。

 しかも、この12.1%は、震災直後に6.7%にまで落ち込んだ数字を、電力会社の必死の努力で何とか伸ばしての値である。OECD諸国の主なエネルギー自給率は下記の通りだ。

1位 ノルウェー:816.7%
2位 オーストラリア:338.5%
3位 カナダ:174.5%
5位 米国:104.2%
16位 フランス:54.4%
34位 韓国:17.7%
35位 日本:12.1%
36位(最下位) ルクセンブルク:5.0%

 ちなみにOECD以外では、ロシアが195%、中国が80%となっている。

岸田首相の「原発最大9基稼働」発言でも
電力会社幹部の不安が消えない理由

 日本で電力不足となれば産業界にとどまらず、国民生活にとっても痛手となる。さらには家計における電気代は、基本料金のほかに自然エネルギー普及のための「再生可能エネルギー発電促進賦課金単価(再エネ賦課金)」が徴収される。平均モデル負担額(月260kWh消費、21年度)で月に約870円だ。4人家族となると消費電力量は300〜400kWhとなり、月額1000円を超えてくる。

 しかもこの賦課金は、再エネの固定価格買取制度との兼ね合いで30年まで上がり続けることが決まっており、家計の圧迫は避けられない。これから到来するとされるデジタルトランスフォーメーション(DX)を中心とする未来において、電力需要が激増することは確実だ。原発なしの成長戦略など描けるはずがない。

 そんな経済界からの心配の声を受けて、岸田文雄首相は7月14日、「原発を最大9基稼働させる」と表明した。経済界を中心にこの発言は歓迎されていたが、この9基の再稼働は計画に織り込み済みのものだった。

「それを織り込んで、なお電力不足への懸念がある」としてきた電力会社の供給面での不安は消えていない。ある電力会社幹部は、匿名を条件にこう打ち明けた。