現在、アメリカで最も成功している教育系の非営利団体(NPO)「ティーチ・フォー・アメリカ(TFA)」。2010年、全米で就職ランキング1位となり、グーグル、アップル、ディズニー、マイクロソフトよりも働きたい「理想の就職先」と言われている。
その日本版であるティーチ・フォー・ジャパン(TFJ)を20代で立ち上げたのが、体育教師だった松田悠介氏。日本の教育を変える第一歩を踏み出した彼の足跡を追う。(3回連載)

ハーバード教育大学院での
偶然の出会いが僕の運命を変えた

 2009年秋、僕は25歳でアメリカ・ハーバード大学の教育大学院に留学した。体育教師だった僕が、自分なりの理想の学校をつくりたいと思い、猛勉強の末に合格通知を受け取ったのだ。

 しかし合格はしたものの、慣れない英語の授業についていくために必死で勉強する日々。図書館、寮、そして空き教室。ところかまわず、まさに寝る間を惜しんで課題に取り組まなければ間に合わない。

 その日も空いている講堂で課題の予習をやっていた。ふと気づいてまわりを見ると、パラパラと人が集まってきていた。どうやら、誰かの講演があるらしい。300人くらい座れる講堂が、いつのまにかほぼ埋まっていた。いったい誰の講演なのだろうか。隣に座った男子学生らしき人に尋ねると、彼はちょっと興奮した様子で言った。

「TFAのウェンディがくるのさ」

 TFA(ティーチ・フォー・アメリカ)。その名前はハーバードに来てからたびたび聞いている。TFAは学生の就職先として人気だった。ここ数年、文系の学生たちの就職人気ランキングでグーグルやアップルをおさえて上位に入っている。またハーバードの僕のクラスの約2割がTFAの出身者で、彼らは人間的な魅力にあふれていて、学内でも目立つ存在だった。

 そのTFAを約20年前に女子学生だったときに立ち上げたのが、今から講演をするウェンディ・コップだという。みんな騒いでいるけど、いったい何をする組織なのか。興味をひかれた僕は、予習のノートを閉じて彼女の講演を聞いてみることにした。

すべての子どもたちに、
質のいい学習環境を届ける

 スピーチに耳を傾けているうちに、隣の学生が興奮していた理由が僕にもわかってきた。事業モデルがユニークで、とてつもない可能性を秘めているのだ。TFAは、ハーバードやスタンフォード、コロンビアなどトップクラスの大学生、既卒生からさらに優秀な人材を選抜して特別な研修を行い、その学生を教育困難校に2年間派遣するプログラムを実施している。

 満足に教育さえ受けられない子どもはそれによって、めきめきと学力があがり、教師たちは、教育困難校で子どもたちと向かい合い、さまざまな困難や経験を通して、今の人材に必要とされている、リーダーシップ、コミュニケーション能力、課題解決力といった能力を身につける。つまり教えられる生徒も教える教師も成長するのだ。

 さらに、彼らはプログラム修了後、社会に出て各々の立場から教育問題について発信し、影響力を行使していく。それによって社会全体で教育問題を共有して、解決を図ることができる。

「つまり、優秀な人材を巻き込んで、すべての子どもたちに、質のいい学習環境を提供する。それが私たちの使命です」

 このウェンディの一言で、僕は動けなくなった。
 日本の教育に足りないのは、これだ。このしくみを日本にも取り入れたい!これだったら、より多くの子どもたちを救えるかもしれない。