売上目標が負担になってきた
高級外車セールスマンLさん(41歳)

車が好き。それだけがこの仕事に就かせた

 Lさんの仕事は外車のセールスマン。子どものころのスーパーカーブームの後、バブル時代に不動の人気を得た欧州の高級車は、円高が進んだ今も高い人気を誇っている。

 Lさんは高校のときは中型バイク、大学に入って運転免許を手にしてからは、アルバイトをして買った国産のスポーツカーを乗り回していた。

 彼女より車。車を運転しているときが一番幸せだった。

 特に環八から、第三京浜、横浜新道から海沿いを走り西湘バイパスをドライブするのが好きだった。黒い海を左に感じ、夜中に走っていると車と自分が一体化したような快感があった。

 真冬以外は小田原の手前の小さな海水浴場でサーフィンを楽しんだ。車の助手席を倒してボードを積んで海沿いを走っているとそれだけで幸せだった。暑い時は、エアコンをつけずに窓を開ける。かすかに感じる磯の香りと、カセットから低く流れる大好きな音楽。帰りに道が空いていれば、横浜新道に入らずに海沿いを鎌倉から逗子、葉山まで走る。湘南と言われているエリアは、都内育ちのLさんにとっては永遠の憧れだ。

 大学を出たLさんは国内の自動車メーカーに就職した。明るくて話し好き、車好きで、他社の車を研究していることが評価されて新人のうちから頭角を現し、国道沿いの支店で彼はすぐにトップセールスになった。

 新車が発表されるたびに、お客様に対して丁寧にかつ真摯に説明した。子ども好きなLさんは、子どもを乗せて安全で楽しくドライブする方法、安全なブレーキングのコツなどを楽しそうに説明することでお客様に信頼された。

 笑うと目尻が下がり、人懐こい顔のLさんは警戒心を全くもたれなかった。車が好き。営業が好き。これ以上の才能は無いのかもしれない。面白いほどに車が売れた時代は終わっていたが、結婚、出産、引っ越し。人生の節目でお客様に声をかけてもらうのは生きがいだった。

 新車の納車でお客様の自宅に訪問すると、古い車を下取りにと託される。それを見ると古くはなっていても、家族のように大切に乗ってくれていたのが良く分かるのだった。