前回、金融危機を契機として製造業の利益の落ち込みが激しいことを見た。製造業が全産業のなかで大きな比重を占める日本としては、この産業構造を今後変えてゆかなければならないだろう。その際、参考となるのは、アメリカにおいて金融などの先端的産業が急速に復活していることだ。製造業の比率がかなり低くなっているアメリカの状況は、重要なモデルとなる。

 そこで、産業間の違いの問題を、就業の側面から見ることとしよう。そして、そのような就業構造を実現するための教育制度などを考えることとしよう。こうした分析は、日本で未来のリーディング・インダストリーを考える際に、是非とも必要とされるものだ。

高報酬産業は知識集約産業

 1人当たり年間報酬を見ると、産業間でかなりの差が見られる。とくに注目すべきは、金融業の1人当たり報酬の高さだ。【図表1】に示すように、2008年において、金融業は、製造業に比べて3割程度高い。

日米の産業構造に決定的な差をもたらす「高度な知的プロフェッショナル」の育成

 ただし、金融と言っても、業種の差はかなり大きい。1人当たり報酬が高いのは、証券・商品・投資の部門だ(これを以下では、「投資銀行的業務」と呼ぶことにしよう)。これについで、ファンド・信託がある。保険業務と金融仲介業は、さほど高くない。

 もともとそのような差があったが、2003年頃から特に顕著になった。投資銀行的業務と製造業を比べると、1990年代の末には3倍程度であったのだが、2007年には3.8倍にまで拡大した。アメリカの有力大学の学部の学生の9割もが金融を志望したといわれるのだが、これだけの報酬格差があるのでは、当然のことだ。

 日本の金融業は、金融仲介と保険が中心であり、投資銀行的な活動はあまりない。つまり、アメリカの「金融業」というのは、日本の金融業とはかなり性格が異なるものなのだ。

 ここで、「高額の報酬」を、やや恣意的であるが、8万ドル以上と定義しよう。08年において、この条件を満たす産業は、つぎのとおりだ。