
井手英策
参院選の経済政策論議は現金給付か消費減税かという総花的利益をばらまく政策の与野党のアピール合戦になっている。争点が単純化された結果、賃金が上がらない問題や社会保障を巡る受益と負担の支え合いの在り方など本質的課題は脇に追いやられた。有権者の選択の幅が狭くなり極端な政策に民意が吸い寄せられることが懸念される。

2025年度当初予算は「国会修正」で野党が要求する高校授業料無償化や「103万円の壁」見直しが盛り込まれた。だが政策としては目指す社会の未来像の議論はなく生煮えだ。予算案の衆院通過を最優先する与党と存在感を示したい野党の政治的思惑が先行した感がある。

消費税アップの「実施前」と「実施後」で世論調査の結果が様変わりした驚きの理由
教育費・医療費・介護費・障がい者福祉が全部タダ!そんな社会を実現する「ベーシックサービス」という考え方が広がっています。提唱者の井手英策・慶應義塾大学経済学部教授が提案する「増税恐怖症」の処方せんとは?井手教授の著書『ベーシックサービス 「貯蓄ゼロでも不安ゼロ」の社会』(小学館新書)から抜粋・編集して紹介します。

「消費税16%」で教育・医療・介護・障害者福祉がタダになると言われたら、あなたはどう思いますか?
教育費・医療費・介護費・障がい者福祉がタダ、そんな社会を実現する「ベーシックサービス」という考え方が広がっています。提唱者である井手英策・慶應義塾大学経済学部教授は、ベーシックサービスと税の話は切っては切れない関係にあると指摘します。こうしたサービスの無償化には、一体どれほどのお金がかかるのでしょうか? 井手教授の著書『ベーシックサービス 「貯蓄ゼロでも不安ゼロ」の社会』(小学館新書)から抜粋・編集してお届けします。

政府は物価高対策を軸にした経済対策をまとめたが、本質的な議論や国民の合意形成がないまま巨額の財政支出が決められたのはコロナ対策と同じだ。対策での「選択」の是非や意味を改めて考える必要がある。

兵庫県明石市は子育ての無料化など中間層重視の行政サービスで人口増や税収増の好循環を作りだしている。課題も残るが普遍主義、必要主義に徹した行政は地域活性化や社会のモデルとして参考になる。

日本は高等教育への支援が先進国で最も貧弱な国の一つだ。安倍元首相銃撃事件では容疑者が大学進学を断念せざるを得なかったことが凶行の一因ともいわれる。政治はこの「闇」にも光を当てる必要がある。

参院選の主要争点である物価高対策で、政府与党の“円安放置”は無策の批判を受けても仕方がないものだが、野党が掲げる消費減税の効果は曖昧だ。重要なのは生活者目線の将来を見据えた政策だ。

政府の巨額債務への危機感の希薄さは安倍元首相の「日銀は政府の子会社」発言が象徴する。だが、日銀が国債を買って財政は破綻しなくても財政のコントロールが利かないと経済は破綻、民主主義が衰退することは歴史が示す。

コロナ対策や物価高対策などの給付金が支援の本当に必要な人に届くようにするためには、戸籍情報のネットワーク化など社会保障のインフラ整備が課題だ。行政の無駄遣い批判だけでは構造問題は解決できない。

参院選を前に、野党のエネルギーは消費減税ありきの「野党共闘」に向けられているが、重要なのは税を取って格差是正や生活不安解消に使うという政策発想だ。共闘の呪縛のもと時代遅れの政策では支持は得られない。
