勝ち組トレーダーによる投資コラム集

世界最強の運用会社・バンガード社の投資信託の秘密を解説! バンガード社のインデックスファンドの強みとそれを実現する「アットコストの原則」とは?吊られた男・連載コラム【第5回】

2018年4月26日公開(2022年3月29日更新)
ザイ・オンライン編集部
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インデックス投資家や米国株投資家の間では以前から知られていた米国の投資運用会社・バンガード社。昨年は、日本でも「楽天・バンガード・ファンドシリーズ」の登場で大きく話題となった。今回の吊られた男さんは、「なぜバンガード社は世界最強の資産運用会社と呼ばれるのか?」「バンガード社のファンドは、どうしてコストが安いのか?」など、バンガード社の強さの秘密を解き明かす!

【吊られた男さんの詳細記事はこちら!】
インデックス投資で運用利益1000万円オーバー! 資産配分からポートフォリオ、積立方法まで、個人投資家・吊られた男さんの手法のすべてを公開!

米バンガード社のインデックスファンドで
運用する良質な投資信託が登場

 インデックス投資家にとって2017年のビッグニュースの一つとなったのが、楽天×バンガードの「楽天・バンガード・ファンドシリーズ」の登場です。楽天・バンガード・ファンドシリーズは、アメリカで非常に人気の高いバンガード社のETFで運用するインデックスファンドであり、日本のインデックス投資家からも「あのバンガード社のファンドを日本で買えるようになった!」と話題になりました。

■「楽天・バンガード・ファンド」のインデックスファンド
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 私も、楽天・バンガード・ファンドのインデックスファンドは、非常に高く評価しています。その理由は、まず、コスト面で非常に優れていること。どのファンドも購入手数料が無料のうえ、運用期間中にかかる信託報酬も、同じインデックスを投資対象とする他社のファンドにくらべて低めになっています。

 さらに、新しいファンドといっても、その投資先はすでに素晴らしい運用実績のあるバンガードのETFなので、おかしなトラッキングエラー(ベンチマークとのズレ)が出るようなことも考えにくいです。

 このように、楽天・バンガード・ファンドシリーズは、現時点で日本で買えるインデックスファンドとしては、非常に優秀なファンドシリーズになっています。加えて、つみたてNISAやiDeCo(iDeCoは楽天証券のみ)でも買えるので、まさに長期での資産形成に適している商品と言えそうです。

 あえて楽天・バンガード・ファンドシリーズの弱点に言及するならば、この記事を書いている時点で4本しかファンドがない(全世界株式、全米株式、新興国株式、米国高配当株式)という選択肢の少なさです。

 しかし、1本で世界中の株式市場をカバーする「楽天・全世界株式インデックス・ファンド」がラインナップに入っていますので、「つみたてNISAを始めたいけど、何を買っていいかわからない」という人はこのファンドを1本積み立てておけば、大きな間違いはないと思います。つまり、そもそもたくさんの商品数がいらないとも言えるので、大きな弱点ではないでしょう。

 なお、楽天・バンガード・ファンドシリーズを高く評価しているのは、私だけではありません。投資信託投資ブロガーが投票して決める「投信ブロガーが選ぶ! Fund of the Year 2017」で1位と3位にランクインしており、私以外の多くの人からも高い注目と評価を得ていることがわかります。

 なぜ、これほどまでにバンガード社の運用するファンドが注目されるのでしょうか。それは、バンガード社がユニークな特徴を持っているからです。今回は、このバンガード社について解説していきます。

バンガード社は、世界で初めて
個人向けインデックスファンドを売り出した運用会社

 今では機関投資家などの間で広まっているインデックス運用ですが、それをいち早く提唱し、資産運用会社として世界トップクラスの地位に立ったのが、アメリカのバンガード社です。

 ジョン・ボーグル氏が設立したバンガード社は、1976年、世界で初めて個人向けインデックスファンドを設定しました。当初はインデックスファンドなんてくだらないと考えられ、「ボーグルの愚行」とまで言われました。

 しかし、その後インデックスファンドはその実力を示し、2016年にはアクティブファンドから40兆円資金が流出する中でインデックスファンドには60兆円の資金が流入するほど人気となりました。

 このようにインデックスファンドに資金が集まることにより、今ではアメリカ株式投信の20%以上がインデックスファンドで運用されています

 インデックスファンドの登場から40年以上が過ぎましたが、2017年時点ではバンガードの運用資産総額は4.7兆ドルになりました。これはブラックロック社に次ぐ世界2位の運用資産総額です。

 その上、インデックス運用人気の流れに乗った機関投資家からも個人投資家からも資金を集めていて、ブルームバーグの『ブラックロックとバンガードが支配する世界-数年で運用額2250兆円に』という記事では、2020年には現在首位のブラックロックを抜いて世界1位になり、2023年には運用資産総額が10兆ドルを超えるという予想がされてます。

 バンガードこそ、まさに世界最強の資産運用会社と言ってもいいでしょう

バンガードの投資信託が強い理由は
持続的な低コストを実現する仕組にあった!

 バンガードが資産を集めているのは、バンガードのファンドはコスト(投資家が払う費用)が低いからと言われています。

 実際にその通りです。一般的にインデックスファンドはコストが低く、アメリカでの業界平均のExpense Ratio(≒信託報酬)が0.62%となっていますが、バンガード社のインデックスファンドのExpense Ratioは0.12%と業界平均の1/5以下の水準になっています

 しかし、単にExpense Ratioを下げればいいだけであれば、他の会社も真似して値下げを行うことで熾烈な価格競争となり、バンガード社の競争優位性はなくなってしまいます。しかし実際は他社がバンガードに追従することは簡単ではありません。

 バンガード社の表面上の強さはコストの低さですが、その裏側には他社が容易にマネできない低コスト競争に勝ち抜くための持続可能な戦略的仕組みがあり、これが真のバンガード社の強みとなっているのです。

 そのバンガード社を支えている仕組みのひとつが、「アットコスト (at-cost)」と呼ばれている原則です

日本の投資信託は「適正な受益者負担の原則」を
まったく満たしていない!

 アットコストは「適正な受益者負担の原則」と言い換えてもいいでしょう。

 ここには「適正」と「受益者負担」という2つの特徴があります。受益者負担を簡単に説明すると「サービスを利用する人(受益者)が、そのサービスのコストを負担する」ということです。逆に言えば、サービスを利用しない人はそのサービスにかかるコストを負担しないということになります。

 「受益者負担って当たり前じゃないの?」という声も聞こえてきそうですが、日本の投資信託に対して投資家が負担するコストを見ると、実に不思議で分かりにくい仕組みになっています。

 銀行や証券会社へ投資信託を買いに行くと、その金融機関のスタッフが出てきて「投資をお考えとのことですね。それではまずどのように資産を……」と商品選びどころかマネープランやライフプランから相談に乗ってくれます。ここでスタッフの時間を使っているはずなのですが、それに対して手数料は取られません。

 また、その金融機関で口座を開いても、口座手数料は取られません。実際には、顧客が口座を開けばその口座情報を管理する手間がかかるはずですが、顧客が手数料を払う必要はありません。

 次に、投資信託を購入すると、基本的には購入手数料がかかりますが、最近は購入手数料が無料の「ノーロード」ファンドも増えています。そのため、ファンドや購入する金融機関などによって購入手数料がかかる場合とかからない場合があります。

 その他、金融機関が投資家向けセミナーを行うことがありますが、この手のセミナーはだいたい無料です。

 さらに、投資信託購入前の相談が無料と書きましたが、投資信託購入後の相談も無料です。今持っている投資信託を保有し続けるべきか、売却して違う投資信託を購入すべきか、といった相談にも無料で乗ってくれます。

 このように日本の金融機関で投資信託を購入しても、各種コストは無料というものも多くて素晴らしいように見えるかもしれません。しかし、これは「罠」なのです

日本の金融機関は、
投資家に不必要なコストを負担させている!

 金融機関は、自ら自腹を切って奉仕をする団体ではなく、利益を追求する企業です。あくまで利益を出すことで事業を続けていきます。つまり、いろいろな手間がかかるサービスを無料としているということは、その分どこかで顧客から手数料を取っているのです。

 上の例では、費用がかかるのは、「購入時の手数料」及び投資信託保有時にかかる「運用管理費用(信託報酬)」でした。ここからしか投資家から費用を取っていないということは、「購入時の手数料」や「運用管理費用」などと言いながら、実際には相談や口座管理、セミナーなどの費用分も一緒に徴収しているのです

 「ちょっと待って、私セミナーなんて参加していないけどその費用も取られているの?その分、運用管理費用下げてよ。」と言っても通用しません。

 また、口座を開いたはいいけれどお金を1円も入れていない口座もあります。そのような口座を管理する費用も、お金を払ってくれる人から徴収しています。さらに言うと0円ならまだマシで、数千円や1万円といった少額だけ入金して投資信託などを保有されると目も当てられません。

 保有金額にかかわらず、投資信託保有時にかかる運用管理費用の負担率は同じです。運用管理費用が1.0%であれば、1万円の購入でも1000万円でも1%です。1万円と1000万円では金融機関に入る手数料は1000倍違いますが、口座管理の手間や運用報告書を送るといったような手間は変わりません。

 最近では、数百円から投資信託を購入することができる金融機関もありますが、仮に500円ずつ20種類の投資信託を保有されると、その分だけ運用報告書を送ることになり、印刷代と送料だけでもバカになりません。1万円という金額から数%の手数料をもらったところで大赤字です。

 このような赤字口座の管理にかかっている経費も、他の投資家から徴収しているのです。

そのため、「私は自分で購入・売却判断ができるので相談に乗っていただかなくて構いません。セミナーも不要です。1億円以上投資信託を購入しています。」という人であっても相談料、セミナー料の分だけ割引になるわけでもなく、投資額によるボリュームディスカウントも受けられません。

 日本の金融機関における手数料は、そのサービスの利用者(受益者)が負担する受益者負担の原則に則っていません。

 さらに、このようにサービスを受けている人がそのサービス毎に費用を負担するのではなく、まとめて費用をとっていると、実際にかかるコストが分かりにくくなります。

 「相談料は1回5000円」のように個別にサービス料金が分かっていると、それが安いか高いか判断しやすいのですが、みんなの運用管理費用の中から相談料も貰っているとなった場合、本当に相談料に見合った適切な金額が徴収されているのか分かりにくくなります。

 手数料体系をわかりにくくして割高な料金を徴収するというのは、企業の常套手段です。投資信託の世界でも3階建て4階建てといったよくわからないけど複雑な仕組みの投資信託を用意して何となく凄そうなイメージで割高な手数料を正当化するような話もありました。

 受益者負担の原則に従っていないことで、適正以上の費用を負担させられているとも言えます。

バンガード社では、公平性を保つために
あえて口座管理料やアドバイス料を徴収

 さて、この日本の費用体系を踏まえた上でバンガード社の費用体系を見てみます。

 バンガード社のアットコスト(適正な受益者負担の原則)のよい例が、口座手数料とアドバイス料です。

 まず、バンガード社では、口座の資産残高が1万ドル以下の口座からは年20ドルの手数料を取ります。運用管理費用から口座管理料をカバーできないような人の口座管理費用を他人からいただくのではなく、ちゃんとその口座の持ち主に負担してもらうことになっています。

 また、バンガード社では、相談も無料ではありません。相談をする場合には、資産残高の0.3%が相談料としてかかります。「相談を受けるには、その人の経費がかかるのですからしっかり負担してもらおう」という仕組みです。

 なお、50万ドル以上の口座残高の人の場合は、運用管理費用から十分に費用を負担いただいているということなのか、この相談料が無料になるといったようなサービスもあります。

「シェアクラス」によって
同じ投資信託でも異なる運用管理手数料を設定

 また、低いことで有名な運用管理費用も、単に安いだけではありません。

 次の仕組み自体はバンガード社固有というものではなく、アメリカでは他の会社も採用している仕組みではありますが、アットコストの仕組みになっているので紹介します。

 バンガード社を含めいくつかの投資運用会社では、同じ投資信託でも各投資家の投資額やETFかなどによって、運用管理費用が異なる複数の「シェアクラス」といったものに分けられています

 例えば、一番有名なS&P500に連動するインデックスファンド「Vanguard 500 Index Fund (Vanguard Institutional Index Fund)」におけるシェアクラスごとの Expense Ratio (年間の総経費、日本における信託報酬のようなもの) を見ると、次のようになります。日本だと「VOO」のティッカーで有名な「Vanguard S&P 500 ETF」がこの投資信託のシェアクラスの一つです。

■同じS&P500連動型インデックスファンドでも、シェアクラスで費用は異なる
ファンド名 シェアクラス 最低投資資金 Expense Ratio
(運用管理費用)
VFINX インベスターシェア
(Investor Share)
なし 0.14%
VFIAX アドミラルシェア
(Admiral Share)
3000ドル 0.04%
VINIX 機関投資家シェア
(Institutional Share)
500万ドル 0.035%
VIIIX 機関投資家プラスシェア
(Institutional Plus Share)
1億ドル 0.02%
VFFSX 機関投資家セレクトシェア
(Institutional Select Share)
50億ドル 0.01%
VOO ETF 0.04%

 運用管理費用が低いと言われるバンガード社のインデックスファンドですが、実はそうとも限らないのです。一番下の最低投資金額がない「インベスターシェア」の「VFINX」の場合、年率0.14%となり、決して激安という水準ではありません。

 ファンドの購入額が100倍になるからといって 運用にかかる費用が100倍になるわけではありません。 そのため、かかる費用はファンド購入額に対して一律同じ比率というのは本来適切ではありません。この問題を解決するため、バンガード社ではファンドに入れるお金の規模に応じて手数料を変えるといった対応をしています。

 仮に1000ドルを「VFINIX」に投資すると、年間の費用負担は1000ドル×0.14ドルで1.4ドルです。一方、3倍の3000ドルを投資すると年間の費用負担は3000ドル×0.04%で1.2ドル。3倍投資した方が負担する費用が少ない、ということも起こるのです。

単にコストを削るのではなく
「見える化」することで持続的な低コストを実現

 ここで解説してきたように、口座管理や資産運用相談、さらにはファンドの購入などにかかる費用について、サービス毎にその受益者が適切にコストを負担する仕組みになっているのがバンガード社の特徴です。

 このような仕組みになっていると、先の日本の例で挙げたような「私は自分で購入・売却判断ができるので相談に乗っていただかなくて構いません。セミナーも不要です。1億円以上投資信託を購入しています」といった自立した投資家であれば、かなり費用を抑えられます。

 少額投資家の口座管理料を負担させられることもありませんし、不要な相談やセミナー料金を負担することもありません。また、相応の投資資金があることで、運用管理費用(信託報酬)も低く抑えられます。

 バンガードでは、単純にコストを切り詰めているのではなく、コストの見える化を推進することで、持続的に低コストを実現していく仕組みを作り出しているのです

 今回は、世界最大級の投資運用会社バンガードの強さについて、「低コスト」の部分に焦点を当てて解説しました。しかし、実はバンガードには、もうひとつ「投資家が株主であること」という特徴もあります。これもバンガードの強さの秘密になっているので、次回詳しく解説していきたいと思います。

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著者:吊られた男
(『吊られた男の投資ブログ』:http://www.tsurao.com/)

大手外資系製薬会社でシステム系エンジニアとして働くかたわら、約10年前よりインデックス投資を開始し、その運用益1000万円以上に。『吊られた男の投資ブログ』は、運用銘柄から資産状況まで赤裸々に公開されており、インデックス投資家の間で広く読まれている。ちなみにHNは、タロットカードの「The Hanged Man」から。

2017年7月には、初の著書となる『毎月10分のチェックで1000万増やす!  庶民のためのズボラ投資』(ぱる出版)を上梓。

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【第3回】「つみたてNISA」と「iDeCo」は、投資の常識を大きく変える! 金融庁の思惑は「個別株の短期売買」から「インデックスによる長期分散投資」への転換か
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以前はライブスター証券だったが、2021年1月から現在の名称に。売買手数料を見ると、1日定額プランなら1日100万円まで無料。1日100万円超の価格帯でも大手ネット証券より割安だ。そのうえ信用取引の売買手数料が完全無料と、すべての手数料プランにおいてトップレベルの安さを誇る。そのお得さは株主優待名人・桐谷さんのお墨付き。2023年10月に新取引ツール「NEOTRADER」が登場。PC版は板情報を利用した高速発注や特殊注文、多彩な気配情報、チャート表示などオールインワンの高機能ツールに仕上がっている。また「NEOTRADER」のスマホアプリ版もリリースされた。低コストで日本株(現物・信用)やCFDをアクティブにトレードしたい人におすすめ。また、売買頻度の少ない初心者や中長期の投資家にとっても、新NISA対応や低コストな個性派投資信託の取り扱いがあり、おすすめの証券会社と言える。
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※手数料などの情報は定期的に見直しを行っていますが、更新の関係で最新の情報と異なる場合があります。最新情報は各証券会社の公式サイトをご確認ください。売買手数料は、1回の注文が複数の約定に分かれた場合、同一日であれば約定代金を合算し、1回の注文として計算します。投資信託の取扱数は、各証券会社の投資信託の検索機能をもとに計測しており、実際の購入可能本数と異なる場合が場合があります。

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