これまで本連載では、国際会計基準(IFRS)の適用が膨大な手間とコストの拡大を招く可能性があることを指摘してきた。しかし、IFRSの適用によってもたらされるのは、否定的なことばかりではなさそうだ。なんと、「のれん」に関する会計方針が変更されることによって、「利益を押し上げる効果がある」というのである。

 「のれん」とは、企業の買収・合併時における「買収の支払対価」と「買収された企業の時価評価純資産」(企業価値)との差額のことであり、「財務諸表には表示できない企業の価値」(山田和延 アクセンチュア・シニアマネジャー)を指す。

 連載第6回で述べたリース会計などと同様に、のれん代に関する会計処理についても、IFRSとの差異をできるだけなくすためのコンバージェンス(収斂)が検討されている。

 実際、現行の日本基準においても、今年(2010年)4月からのれんに係る「企業結合会計」は改正される。それにより、企業買収の際に対象企業の純資産よりも安い価格で買収する「負ののれん」の償却は廃止され、買収時に利益として一括計上されることが決まっている。

 また、企業結合時に合併する企業を対等に評価する日本式の「持分プーリング法」が認められなくなり、合併取引を企業買収とみなす海外の考えに沿った「パーチェス法」だけが許されることになる。

 のれんに関するIFRSへのコンバージェンスが本格的に進むのは、2011年以降となる予定だ。企業がIFRSを適用した際には、大きな変化を迎えそうだ。

IFRS早期適用で
「利益押し上げ効果」の恩恵も

 では、IFRSを適用した場合、のれん代は日本基準とどのように扱いが違うのだろうか。まず大きく違うのが、冒頭でも述べたように、IFRSには「利益を押し上げる効果」がある点だ。

 現行の日本基準では、のれん代は資産として貸借対照表に計上され、20年以内での償却(費用処理)が求められている。とはいうものの、実務上では税法に従い5年償却が行なわれるのが一般的だ。いずれにせよ、毎年規則的に償却しなければならないため、利益を減少させる要因となる。したがって、これまで「事業会社にとってのれんはネック」(高桑昌也エスネットワークス取締役)だった。

 一方のIFRSでは、のれん代を無形資産として計上するものの、償却は認められていない。つまり、毎期規則的に費用として「のれん償却費」が計上されないため、利益を押し上げる効果がある。

 この「利益押し上げ効果」の追い風を大いに受けるのが、M&Aが盛んに行なわれている業界である。特に「海外に活路を見出している“規模が命”の製薬業界や、少子高齢化によって日本市場が頭打ちとなっている食品業界などがよい例」(山田氏)だろう。

 では、のれんを多額に計上している日本たばこ(JT)を例に挙げて説明しよう。