「最後までやり通す経験」から人格が形成される
そしてフィッツシモンズは、ハーバード大学は実際に「最後までやり通す」ことを重視していると語った。私が最近の研究でウィリンガムの研究結果が正しいことを確認したと話したところ、ハーバード大学でも非常によく似た評価方法を採用しているという。
「ハーバードの入試事務局で行っているのも、君がグリット・グリッド(本連載第5回参照)を使って行っているのと、まったく同じような方法なんだよ」
それを聞いて、フィッツシモンズが以前、1年以上も前に読んだ私の入学願書の内容を、なぜあれほどはっきりと覚えていたのか、ようやく合点がいった。彼は私の成績だけでなく、私が高校時代に課外活動にも熱心に取り組んだことを評価し、これなら大学生活の厳しい試練を乗り越え、さまざまなチャンスをつかめるだろうと判断したのだ。
「40年以上も入学審査にたずさわってきて思うのは、ほとんどの人は生まれながらにとてつもない可能性を持っているということだ。だから問題は、やり抜く力を発揮して、ひたすら地道な努力を積み重ねることで、その可能性を最大限に生かせるかどうかにかかっているんだ。最後に大きな成功を収めるのは、そういう人たちだからね」
そこで私は、課外活動を最後までやり通すことは、「やり抜く力(グリット)」のある証拠にはなるとしても、「やり抜く力」を育む効果はない可能性も考えられるのではないか、と指摘した。
それに対してフィッツシモンズは、そういう考え方もわからなくはないが、やはり、課外活動をやり通すのは、たんに「やり抜く力」がある証拠だけではない、という考えをあらためて主張した。
「活動に取り組んでいくうちに、周りの人から多くのことを学ぶ。いろいろな経験を重ねるうちに、自分にとってなにが重要なのか、その優先順位がわかってくる。そういうなかで人格が育まれる。ときには、学生が親やカウンセラーの勧めで活動を始めるケースもある。しかし、そういう活動をとおして学生たちは重要なことを学ぶし、そこで学んだことはほかでも生きてくる。学生たちがアドバイスにしたがって思い切って活動を始めてみると、親やカウンセラーが思ってもみなかったほど、熱心に取り組むようになるケースも多い」