このオタク風の男、まさか縁切り神社からあとをつけてきたのか?と思ったものの、たしかに今日、ニーチェのことについて考えていたこともあり、私は警戒心を解かないままに、少しだけ男の話を聞くことにした。
「あの、どういうことでしょう?」
「ふう。手助けに来てやったのに、変質者扱いとはずいぶん失礼だな。何度も言うようだが、私はニーチェだ。お前が縁切り神社で願ったことを、手助けしに現世にやって来たのだ」
男はそう言って右手をこちらに差し出した。
私は腕を引っ張られないよう警戒しながら、おそるおそる指先だけで握手をする。
「あの、私オカルトとか都市伝説とか苦手というか、フリーメイソンくらいしか信じられないので、あなたの言っていることが完全には信じられないのですが……」
「そうか」
男はうつむくと、その長い前髪を、人差し指にくるくると絡めた。
考え事をしているのか、目つきは険しい。男はしばらく人差し指をくるくると回したのち、指から前髪を離し、何かひらめいたように、こう言った。
「ならば完全に信じることはない。私はただ、お前が新しい自分になりたいと望んだ手助けをしに、目の前に現れたまでだ」
「望んだとおりというのは……」
「今日、縁切り神社で、お願いしただろう?悪縁を切り、良縁を結びたい。これまでの古い自分から、新しい自分に変わりたい、と。
私はお前を“超人(ちょうじん)”にするために、こうしてやって来た」