男の言っていることは非科学的で嘘くささ極まりないが、話はうっすらとではあるが一本の線で繋がっているように感じた。というよりも、もしも縁切り神社が本当のパワースポットだったら……という神秘的な出来事を信じたい自分がいたのかもしれない。

 何かを期待させる、春という季節のせいなのか。それとも、失恋によって心が少し疲れていたからだろうか。信じがたい不思議な出来事を目の前に好奇心が加速していたのか、どうしてかはわからないが、この時私は心のどこかで

「もしも」に期待していたのかもしれない。

「まあ座りたまえ」

 男は近くにあるベンチを指さした。哲学の道にはベンチがいくつも置かれている。

 哲学の道は長細い一本のじゃり道で、じゃり道の脇には疎水と呼ばれる静かな水路が流れており、疎水とじゃり道の両側にはしだれ桜がアーチをつくっていた。

 そして、今日のような桜の季節が終わる頃は、落ちた桜の花びら一枚一枚が疎水一面に広がりピンク色のじゅうたんのように見えるのだ。

 じゃり道にも桜の花は散らばり、まるで春が吹き抜けたようであった。

 私とニーチェはベンチに落ちた花びらをはらい、腰掛けた。話を受け入れる気になったものの、まだ警戒している私は、ニーチェと少し離れて座った。

「なんか飲むか?」

 ニーチェはポケットから小銭を取り出し、こちらに差し出した。

「そこに自販機があるだろう、私は温かいココアを頼む。お前のぶんも好きなもの買っていいぞ」

 どうやら、買ってこいということのようだ。

「なんで私が」と言いかけたのだが、変に話がこじれるのも嫌だったので、私はしぶしぶベンチの後ろにある自販機でミルクティーとココアを買うことにした。素手で持つにはやや熱いココアの缶をニーチェに手渡すと、ニーチェは

「いやぁ~ココアはいつ飲んでも美味いわ」

と独り言を呟きながら、一気に飲み干した。私は、ミルクティーの入った缶のぬくもりを両手で感じながら、再びベンチに腰掛ける。