「友人紹介」がアルバイト全体の6割強

日比谷勉(ひびや・つとむ)
日本マクドナルド株式会社 人事本部ピープル・ディベロップメント部 統括マネージャー。1964年生まれ。東京都出身。大学卒業後、日本マクドナルド株式会社に入社。2008年プロジェクトリーダーとして、全店舗のクルー採用を促進する自社Webサイト「マックdeバイト」と一括応募を可能としたコールセンターを設立。この功績により、全世界の従業員の中でトップ1%の優秀な業績を残した社員に贈られる「プレジデントアワード」を受賞。2015年より現職。正社員・クルー・チャレンジクルー(障害者)の採用・定着のため、中・長期的かつ幅広い視点でのソリューションを構築・提供する役割を担っている。2016年3月には、新しい試みとして、クルーの「成長」を描いたオリジナルアニメーションを制作公開し、マクドナルドの採用キャンペーンを実施した。

【中原】今、お2人の店舗のスタッフ数はどれくらいなんですか?

【西村】六本木ヒルズ店は110人です。

【齋藤】立川伊勢丹前店は70人ですね。

【中原】これはほかの店舗と比べて多いほうなんですか?

【日比谷】今、全国平均が約50人ですから、2店とも多いですね。売上もスタッフの人数に比例して多いということになります。とくに六本木ヒルズ店は全国で3番目です。

【中原】すごい。「人手不足」と言いながら、ここまでのスタッフを集められているのは、マクドナルドさんの中で何か戦略があったんですか?

【日比谷】はい。「人が採りにくい時代になる」というのは、8年ほど前から求人倍率の動きを見ても明らかでしたので、覚悟をして戦略を練ってきました。その1つが「友人紹介」ですね。オープンに募集する採用が難しくなるのなら、すでに働いているアルバイトに、友達を連れてきてもらおうと。

【中原】友人紹介というのは、「誰かいい人がいたら紹介してね」と店長からアルバイトに声をかける感じなんですか?

【日比谷】基本的にはそうですね。いまは友人紹介での採用が全体の6割ほどを占めています。
マクドナルド全体では現在、12万人が働いていて、アルバイトの採用は1ヵ月平均で5000人ほど。つまり1ヵ月の採用数のうち、3000人は友人紹介で入ってきて、求人広告やWebからの応募は2000人前後ということになりますね。

今年3月から公開している採用キャンペーン用の動画(声の出演:AKB48 Team 8の岡部麟さん&AKB48グループ総監督の横山由依さん)も、マクドナルドでのクルー体験を通じて成長した主人公が、別の女の子に「ねえ、一緒にやらない?」と声をかけるシーンで締め括っています。

「友人紹介」が内定辞退・早期離脱のリスクを減らす

齋藤周平(さいとう・しゅうへい)
マクドナルド立川伊勢丹前店店長。1989年生まれ。東京都出身。大学卒業後、2011年日本マクドナルド株式会社へ入社。2015年店長へ昇格。自らロールモデルとなり、人材育成に力を入れている。マクドナルド働くことで“成長”を実感しているクルーが多く、そのポジティブな雰囲気が定着に繋がっている。

【齋藤】立川伊勢丹前店では、友人紹介の割合はもっとずっと大きいですね。9割は超えています。

【中原】9割!

【齋藤】はい。近隣の飲食業のお店を見渡してみると、立地的に「時給1000円オーバー+交通費」というのが平均的な条件ですが、うちの時給はそこまで達してはいません。簡単なイメージでは「100円+交通費」分くらい負けていることになるので、オープンにアルバイトの募集をしても、どうしても応募が来にくい。だから友人紹介の割合は大きくなりますね。

【西村】六本木ヒルズ店も同じ状況です。周りのお店の「時給1500円+交通費」には全然届かず、圧倒的に不利な条件提示をしています。ですから六本木ヒルズ店も、友人紹介の割合は7割ほどで、平均よりも高い数字になっています。

【中原】友人紹介で来たアルバイトと、通常の募集で応募してきたアルバイトとでは、ポテンシャルに違いはありますか?

西村裕美(にしむら・ひろみ)
マクドナルド六本木ヒルズ店店長。1988年生まれ。兵庫県出身。大学卒業後、2011年4月日本マクドナルド株式会社へ入社。2012年店長へ昇格。2016年より現職。クルーの提案や意見を取り入れて、「敬意ある職場」を実現することを心掛けている。

【齋藤】正直、あります。周りのお店より時給が低いからなのかもしれないですけど、通常の募集をかけると、「他のところで面接に落ちた人」が応募してくることが多いんです。だから結局、面接しても採用には至らないケースが多いですね。
一方、友人紹介の場合は、マクドナルドでアルバイトとして働く魅力を、すでにいるアルバイトが伝えてくれていて、それに合意して応募してくれる。必然的に、採用率と、採用した後の定着率は高くなります。

【中原】なるほど。友人紹介の場合は、齋藤店長が面談する前に、いま働いているアルバイトの人がマクドナルドの魅力を伝えてくれていると。「こんな素敵な職場だから、一緒に働かない?」という紹介になっているんですね。

【渋谷】それは、齋藤店長のほうから、「こういうふうにアルバイトに言ってよ」と頼んでいるんですか?

【齋藤】採用したい時期にはお願いしますね。でも、こちらからお願いしなくても、クルーが自ら連れてきちゃうパターンは結構多いです。いずれにしろ、変な職場だったらお友達にはなかなか声をかけられないと思いますね。

【中原】お願いされなくても、勝手に面接に連れてきちゃう!すごいな、それもまた(笑)。西村店長はどうですか?

【西村】私は、年間スケジュールの中で集中して人を採用する時期を決めていて、その時期になるとスタッフに声をかけるようにしています。「何月までにこれだけの人が必要だから、当店のアピールポイントをこのように伝えて、こういう人を連れてきてほしい」という感じのお願いですね。

【中原】アピールポイントとは何ですか?

【西村】働く環境のよさや、スタッフの仲のよさ、居心地のよさをまずアピールします。加えて、研修制度が整っていて、店舗のシフトに実際に入るまでにきちんとサポートするから初めての方でも安心だということを伝えます。

【日比谷】友人に声をかけるアルバイトも、自分がどのような職場にいて、どのような扱われ方をしているかがよくわかっていますから、自然に「選別」しているんですよね。友人のAくんBくんCくん全員に声をかけるのではなくて、「B君だったらマクドナルドに合いそうだ。Aくんはちょっと難しいかな」という選別が働く。自動的に「1次面接」をしてくれているのが友人紹介のメリットですね。

【齋藤】そう思います。アルバイトとして入店した後に「イメージと違った」ということも友人紹介の場合は少ないですし、みんなの輪にも溶け込みやすいので、定着しやすい。

【中原】なるほど。友人紹介のメリット、ほかにはありますか?

【西村】友人紹介で入ってきていただくと、その人がさらに友人を紹介してくれる。自分が誘ってもらったように、新しい人を誘ってくれるんです。その輪がどんどんつながっていくので、店長としては助かります。

【渋谷】今回、われわれが行った調査によれば、友人紹介の割合は「2割程度」というのが平均値でした。ですから、マクドナルドさんの「平均6割、店舗によっては9割」という数字は驚異的なんですよ。活用の仕方によっては、友人紹介は。人を採れない時代のヒントになりますね。