「アルバイトの人手不足」が話題になって久しい。現場ではいったい何が起こっているのか?今回、大手外食チェーン店の現場で奮闘する3人の店長にお集まりいただき、都内某所で「店長覆面座談会」を開催した。
聞き手は、テンプグループとともに、全国約2万5000人を対象としたアルバイト雇用調査を行い、『アルバイト・パート[採用・育成]入門』(ダイヤモンド社)を11月に刊行する予定の東京大学・中原淳准教授。
覆面形式ならではの「ギリギリぶっちゃけトーク」も含め、今回から全4回にわたってお送りする。(構成/高関進)

バイト応募者は店を「見ている」

【中原淳(以下、中原)】近年、あらゆる業界で人手不足が深刻化していますが、とくにアルバイト不足への対策は、2つしかないと思うんです。「入口(採用)を増やす」か「出口(離職)を減らす」か、です。

ただ、「入口を増やす」と言っても、時給を上げられるかというと、そう簡単にはいきません。今回、東大・中原研究室とテンプグループさんとで共同調査を行ったわけなんですが、アルバイトの人手不足を解消するには、まず「いい職場づくり」が欠かせないという仮説に至りました。

この調査はこれまで行われたアルバイト・パートタイマーの雇用調査としては最大規模だと思いますが…‥数字とかデータって無味乾燥じゃないですか?働く現場で実際に何が起こっているのか、数字を眺めているだけではなかなかわからないという思いもあります。

そこで今日は、外食店の店長さんである皆さんをお招きして、アルバイトの採用・育成について、具体的なお話をいただければと思っています。みなさんのお名前はもちろん、店舗や会社を特定できるような情報も明かさない「覆面座談会」ですので、生々しいエピソードも含めて、思う存分に語っていただければなと。よろしくお願いいたします!

【A店長】よろしくお願いします。私は某ファミレスチェーンの店長をして13年くらいになります。いまの店舗(東京都心部)を立て直すという理由で店長になったのが昨年のことです。この店舗の特徴は、採用がとにかく苦しいことでした。ご存知のようにこのエリアは飲食店が立ち並んでいまして、アルバイトの採用単価が1人あたり15万~20万円くらいです。しかも、それを1ヵ月使ったとしても、1人採れるか採れないかわからないという状況。いまは15人ほどアルバイトがいますが、すべて学生さんです。

【中原】そのエリアだと近くに大学がたくさんありますよ。それでもアルバイトが採れないというのは、飲食店が多いのでほかの店に行ってしまうからですか?

【A店長】それもありますが、時給だけでいうと、うちは他店に比べて低いので……。ですから私にできるのは、先生がさきほど仰ったように「内部の環境をよくすること」だと考えています。ふだん来店しているお客さんが、将来のアルバイト応募者になる確率が高いですから、お店のイメージとか、従業員同士のやり取りも当然気をつけています。そこでいい印象をもってもらわないと、どんどん人が採れなくなる。

【中原】「内部の環境をよくすること」、すなわち「よい職場をつくること」ですね。我々の調査によると、外食では、5割近い人が応募前に「下見」に行っているという結果が出ました。実感としてはこの数字に近いものはありますか?

【A店長】あると思います。店長着任当初は本当に人が足りませんでしたが、いまは随分と店の雰囲気も明るくなりました。今年は多少なりとも応募者が多くなったのは、そういった雰囲気づくりに尽力したおかげもあるのかなと思っています。