
欧州連合(EU)はトランプ政権との関税交渉で相互関税率15%で合意した。とはいえ、従前より関税率が上がったことで輸出への影響や成長率低下は避けられない。加えて、合意に当たっては米国産エネルギー輸入や追加投資を約束したが、その目標達成の困難さから、関税引き上げリスクも残る。『成長か腰折れか 緊急調査 トランプ関税の衝撃』(全4回)の#3では、欧州経済の識者5人に、トランプ関税のユーロ圏経済への影響を検証してもらった。(ダイヤモンド編集部編集委員 竹田孝洋)
相互関税15%でトランプ政権と合意
米国産エネルギー輸入増額と対米追加投資を約束
欧州連合(EU)は、報復関税も辞さない姿勢を示しながらトランプ政権との関税交渉を進めてきたが、結局、7月27日に日本や韓国と同じ相互関税率15%で決着した。
トランプ米大統領は5月24日にはEUに対して50%の相互関税を6月1日から課すと表明したが、その後期限を7月9日に延期した。そして、7月12日には30%の相互関税を8月1日以降課すことを表明していたから、30%から15%に引き下げたことになる。
EUからの輸入品について、15%以下の関税率だった品目の税率は15%となり、15%以上の関税率だった品目は従来の水準が適用される。分野別関税についても鉄鋼・アルミ、銅以外については15%とする。
一方、EUは米国から輸入する工業製品の関税を撤廃するなど関税面での優遇措置を取る。日本など他国同様に譲歩を迫られた合意となった。加えて、米国産エネルギーの7500億ドルの輸入と6000億ドルの追加の対米投資を公約した。
米国の対EUの税率設定については、上記の指針に沿って大統領令が出されている。同様の合意をしながら合意内容に沿った大統領令が出されず、既存の税率に一律15%が上乗せされた状態が現時点においても修正されていない日本とは対照的である。
EUの大宗を占めるユーロ圏経済は、上向きつつある。暦年の成長率は2023年が0.5%、24年が0.9%。四半期ベースで見ても回復基調にあることが分かる(下図参照)。
欧州中央銀行(ECB)はコロナ禍に顕在化したインフレを抑制するために22年7月に利上げに転じ、政策金利である預金ファシリティ金利をマイナス0.5%からゼロ%とした。23年9月には4%にまで引き上げた。
急速な利上げもありユーロ圏のインフレ率は低下した(下図参照)。
現在は、ECBが目標とする2%前後の水準に落ち着いてきている。それ故、ECBは7月の理事会で利下げを見送り、預金ファシリティ金利を2%で据え置いた。
関税交渉で合意したといえ、いわゆるトランプ関税導入前より、米国への輸出品への関税率が全体として引き上げられたことには変わりない。また、合意に含まれる米国産エネルギー購入額や追加の対米投資額の目標はこれまでの実績を大きく上回る。
次ページでは、欧州経済のエキスパートにユーロ圏経済の見通し、対米合意事項の実現可能性について回答してもらった結果を公開する。