JR中央線・吉祥寺駅北口から徒歩2分。「ダイヤ街」と呼ばれる商店街に、小さな小さな和菓子店、「小(お)ざさ」がある。店舗面積はわずか1坪にすぎないが、年商は3億円超。一般の菓子製造小売業の年間坪当たり販売額が約231万円(2007年)なので、おそらく坪当たり売上高は日本一だろう。

 しかも、売っている商品は「羊羹(ようかん)」と「もなか」の2品だけ。羊羹は1日150本限定(1本580円)で、“幻の羊羹”ともいわれている。早朝4時、5時頃から、羊羹を買うために必要な番号札を求めて行列がとぎれない。この行列は40年以上続いているから驚きだ。1個54円のもなかも、年末には1日4万個、年間通しても1日平均1万個売れ続けているという。

お店の前には、早朝から「幻の羊羹”を求めて」列ができる

 小ざさの創業は1951年。小さな屋台の団子販売から始まった。屋台には1日12時間、365日休みなく、たった1人で店に立ち、その後、創業者である父・伊神照男氏の薫陶を受けて、羊羹づくりに人生を懸けてきたのが、稲垣篤子社長である。12月3日には、78歳にして初めての本、『1坪の奇跡―40年以上行列がとぎれない 吉祥寺「小ざさ」味と仕事―』(ダイヤモンド社刊)が刊行された。

 それにしても、これだけの人気があれば、生産量を増やし、多店舗展開して、商いを大きくしようとは考えなかったのだろうか。

稲垣社長:店を大きくしますと、目が行き届かなくなりますね。昔の人はよく「身の丈の仕事」と言っていましたが、商売を大きくして大雑把になるよりも、いまやっている自分の仕事をきっちりと、ということでございます。