つまり、「自分を捨てろ」というメッセージの中には、「相手の利益を考えなさい。そのために相手の話を聞きなさい。そうするとみんなが幸せになる」という意味が含まれていたのです。

 どんな打ち合わせにおいても、最初の30分は相手の話を聞くべきです。聞いているうちに、相手が何を求めて、何をしたいのかが分かります。そこに自分がやりたいことをうまく結びつけていくのです。

──中堅社員になって、若いころの自分のやり方がうまくいかなくなったという話もよく耳にします。こうしたことが「自己流の壁」の超え方というわけですか。

 もちろん、自ら積み重ねてきた経験とノウハウの延長戦上にある「自己流」は大事だと思います。ですが、自分中心の価値観の中で磨いてきた「自己流」というのは問題です。人から必要とされていないことをやってきた可能性が高い。だから、壁にぶつかるのです。

 例えば、30代も中盤になると、同僚が偉くなっていたり、成功を収めたりする姿を横目に見ることになります。そこで、自分も偉くなりたいとか、目立ちたいなどといった焦りの感情を持つのは、「ここではない自分探し」をしている証拠。そういう人は、なかなか次が難しいなと思います。

 私自身も、鈴木さんの下を離れた後に、何をやってもうまくいかない時期がありました。そのとき、ノートを見返すと「自分のために仕事をしない」という鈴木さんの言葉が目に飛び込んできたのです。

「自分のやりたい企画」「自分がいいと思うアイデア」に固執していたことに気づきました。そこで、自分を必要としてくれる人の企画を片っ端から受け始めると、一気に道が開けたのです。

 その意味でも、若いころに厳しく接し、鼻っ柱をへし折ってくれる上司が必要だと思います。毎日毎日、怒鳴られて本当によかったなと思います。