来年度予算が金曜日にも閣議決定されます。政権が迷走する中で「予算がまとまるのか」と危惧する声も聞かれましたが、予想どおり財務省が手堅くまとめてくれました。しかし、その内容を見ると、政治と行政の双方でモラルの崩壊が起きていると思わざるを得ません。

基礎年金の国庫負担割合維持のためのバーター取引?

 その典型例は、基礎年金の国庫負担割合の維持のための“取引”です。

 ご承知のように、基礎年金の国庫負担割合は2009年度から1/2に引き上げられましたが、消費税の増税が先送りされる中で、これまで2年間は引き上げ分の財源として埋蔵金が使われていました。

 来年度予算についても、結局は埋蔵金に頼ることになり、鉄道建設・運輸施設整備支援機構(以下、「機構」と略します)の利益剰余金1.2兆円も活用されることになりました。事業仕分けでも指摘された、機構の特例業務勘定に積み上がっていた剰余金です。この決定自体は評価できますが、問題は、1.2兆円を国庫に召し上げるに当たって行なわれた“取引”です。

 機構の特例業務とは、旧国鉄の職員の年金の給付に必要な費用の支払いや、その支払いの資金に充てるために土地やJR各社の株式などの資産の処分を指します。機構は特例業務の経理については、他の経理と区分して特例業務勘定で行なってきました。そこでは、共済年金追加費用や恩給負担金などについては、土地売却収入、JR各社の株式売却収入、国庫補助金収入などをその支払い財源とすることとされています。

 その特例業務勘定から1.2兆円が基礎年金の国庫負担の財源として召し上げられるに際して、財務省と国交省の間で以下のような合意が作られました。

・JR4社(北海道、四国、九州、貨物会社)の経営自立を図るため、特例業務勘定からの合計6000億円の支援措置を実施する。
・整備新幹線の債務償還に要する費用として1500億円を特例業務勘定から建設勘定に繰り入れる。
・今後10年間で、並行在来線の貨物調整に要する費用として1000億円を特例業務勘定から建設勘定に繰り入れる。

 要は、国交省は1.2兆円を国庫に返納する代償として、旧国鉄職員の年金や恩給の経理が目的の機構の特例業務勘定の資金を、経営の苦しいJR貨物会社の支援や整備新幹線の建設などに使えるようにできたのです。