日本に住む6人に1人が、国民平均の半分以下の収入しかない貧困層だと言われる昨今、特に目立つのが若い世代の貧困だ。格差の固定化、ブラック労働問題、性の貧困化――。現代の若者をとりまく現状は厳しい。負のスパイラルから抜け出せない若者たちのリアルやその背景とは?『池袋ウエストゲートパークXII 西一番街ブラックバイト』を上梓した石田衣良氏と、貧困問題について第一線で取材を重ねてきたノンフィクションライターの中村淳彦氏が意見を交わす。
江戸時代の士農工商に逆戻り?
格差が固定化する現代の日本
中村 石田さんの最新刊『池袋ウエストゲートパークXII』の最終章では、ブラックバイトを中心に話が進んでいきます。ブラック企業が猛威となったピークは2000年代後半、さすがに見かねた国が動いて、働き方の改革などが提唱されてからは少しずつ改善の動きがあります。しかし、大切な20代の時期に一度そうした企業に搾取されて精神疾患などの被害を負うと、なかなか這い上がれません。
なかむら・あつひこ/1972年、東京都生まれ。アダルト業界の実態を描いた『名前のない女たち』(宝島社)、『職業としてのAV女優』(幻冬舎新書)、『日本の風俗嬢』(新潮新書)など著書多数。フリーライターとして執筆を続けるかたわら介護事業に進出し、デイサービス事業所の代表を務めた経験をもとにした『崩壊する介護現場』(ベスト新書)が話題に。最新作は『貧困とセックス』(イースト新書)、『漫画ルポ 中年童貞』(リイド社)。
石田 下に落ちても、セーフティーネットがもはや機能していないよね。「自由経済に規制をかけて労働者を守るべき」などといった意見は、昔は左派の主張だったのに、今やそれがリベラルの言葉になってきています。
中村 多くの人が危機感を覚える状況なのでしょうね。介護業界や飲食業界などの労働集約型のブラック企業を見ていても、普通にまじめに働く良心的な人たちの精神が壊れ、気がつけば貧困に陥っている。もはや普通の人が普通の企業に勤めて、それなりに自己実現して豊かに生きていくことは難しいことになっています。
石田 普通に豊かに生きているのは、上位20%ぐらいの少数派かな。今でも、大企業とか、若い人が好きな地方公務員はダメになりにくいでしょう。僕の知っている某大手では、社内結婚がものすごく増えている。年収の高い人同士でくっついて、2人で生涯年収は8億を下らないという。
中村 それでは格差が広がるばかりですね。高所得者カップルが増える一方、低賃金職として固定されている介護職や飲食店員なども職場カップルは多い。同居して世帯収入を上げても、お互いの賃金が低すぎて普通の生活ができないので性風俗に流れちゃう。最近は介護の世界では上層に位置しているはずの事業所管理者とかケアマネジャーまでが風俗でバイトをしているケースがあって、絶望的です。
石田 経済的な格差が固定されている現状を見ると、今になって江戸時代的な身分制度に逆戻りしつつある気がするね。
中村 鈴木大介氏との対談本『セックスと貧困』の中でも触れましたが、沖縄がその顕著な例で、貧困層の子どもは中学校から違法店で身体を売り、18歳になるとキャバクラで働いて、売春から上がれたら一段回ランクアップしたとみなされる、といった過酷な状況でした。