8月18日に放送された、「NHKニュース7」の子どもの貧困特集に登場した“貧困女子高生”。ところが、ネットでは彼女の貧困が「でっちあげ」だとして、炎上騒動にまで発展してしまった。多くの人の関心を集める一方、炎上騒動にもつながりやすい貧困報道。本来メディアは若者の貧困をどう取り上げるべきか。貧困女子のリアルな状況について、取材を重ねてきたノンフィクションライターの中村淳彦氏と、ルポライターの鈴木大介氏、そして、ルポライターであり、10代20代の若年女性の支援を行う特定非営利活動法人『bond Project』を運営する橘ジュン氏が貧困報道のあり方について語りつくす。
「ありのまま」放送すると炎上
配慮に欠ける大手メディア
1973年、千葉県生まれ。「犯罪する側の論理」「犯罪現場の貧困問題」をテーマに、裏社会や触法少年少女らの生きる現場を中心とした取材活動を続けるルポライター。近著に中村淳彦氏との対談をまとめた『貧困とセックス』(イースト新書)、『脳が壊れた』(新潮新書)がある。
鈴木 今回のNHKの貧困報道には本当に残念な思いがあります。ネットが炎上した発端は、貧困の当事者として紹介された女子高生の家に、大量のアニメのグッズやイラスト用の高価なペンなどがあったから。
貧困の当事者報道では何度も繰り返されてきた「それは本当に貧困なのか」タイプの炎上だったわけですが、そんなこと以前に、公共メディアであるNHKが未成年である彼女の映像を、あまりにも配慮なく流したことに強い怒りを感じています。正直、あり得ない。
橘 私もNHKの取材を受けたことがありますが、できるだけ顔出しでお願いしたいっていう感じで、わりと強気で自分たちの主張を通そうとする番組もありましたね。ありのままの状況を映すことで真実を明らかにしたい、というスタンスなのかもしれませんが。
鈴木 アンダーグラウンドで未成年の貧困を取材し続けてきて痛感するのは、未成年に判断力を求めることの間違い。子どもの貧困の当事者の中には、メディアに出たがる子だっていますよ。
成人ですら、ほんの数万円のギャラでメディアに肌を晒す女性がいるわけで。でも未成年に、メディアに出演して記録が残ることの後々のリスクまで考えが及ぶはずがない。ましてネット社会は批判的な声も含めて反応がダイレクトに本人の目の届くところに届けられてしまう。いくら本人の許可を得たからって、無責任に素顔をそのまま放送するのはあってはならないことです。
中村 未成年はメディアに登場するリスクは正確にはわからないだろうし、今回は炎上で個人情報が晒されて大きな被害を受けてしまった。それと大手メディアはどこも、取材対象者を支援団体から紹介してもらって記事や番組を作るけど、支援団体と繋がる当事者は情報とコミュニケーション能力、人との繋がりがあるので貧困の中でも恵まれている層になりがちですね。
NPO 法人BOND プロジェクト代表 2006 年、パートナーのカメラマンKEN と共に、街頭の女の子の声を伝えるフリーマガジンVOICES を創刊。2009 年、10 代20 代の生きづらさを抱える女の子を支えるNPO 法人BOND プロジェクトを設立。これまで少女たちを中心に3,000 人以上に声をかけ、聞いて、伝えつづけてきた。著書に『漂流少女 ~夜の街に居場所を求めて~』(太郎次郎社エディタス)、『最下層女子高生 無関心社会の罪』(小学館新書)がある。
橘 新聞記者からも、家出や貧困女子を紹介してくれって頻繁に連絡がくる。自分で探せばいいのに、できないんですかね…。
鈴木 たとえ支援団体からの紹介であったとしても、当事者報道をするなら支援の担当者と同様に時間をかけて人間関係を結んで、その当事者のどの部分を映すべきか、視聴者によってその当事者が攻撃対象や差別の対象にならないかなど、その後の人生の“ケツをもつ”ぐらいの配慮が必要です。
ところが大手のメディアの記者は短期間取材した程度の相手に対して、「社会に発言をしていくのが当事者であるあなたの責任、義務」ぐらいに高圧的に迫るケースがあって、昨今の貧困報道ラッシュの中で、あちこちで問題というか、被害を巻き起こしています。
中村 大手のメディアの社員は、裕福な家庭で育ったエリート層がほとんど。階層が2段階ぐらい変わると、もう別世界なので話はまったく噛み合わなくなる。今回も炎上させちゃって、女子高生にさらなるスティグマを背負わせてしまった。階層間の分断が、配慮ない報道によってまた進行してしまったと感じます。