スティーブ・ジョブズが再びの療養休暇に入ったことが明らかになり、ちまたでは果たしてアップルが、これまでのようなクリエイティブな企業であり続けられるのかという疑問が噴出している。

ジョブズの完全復帰には
悲観的な見方が広がる

 ジョブズの療養は、2004年から数えて3度目。最初は膵臓ガンの手術で、2度目の2009年の療養は後になって肝臓移植を受けたためとわかった。今回の休暇を知らせる社員へのメールには復帰時期が記載されていないこともあり、関係者の間では、ジョブズがアップルに戻ってくるかどうかについてはやや悲観的な見方が広まりつつある。

 ジョブズの存在は、アップルとあまりに一体化していた。パーソナル・コンピュータという、当時は不可能にも見えたビジョンを持って創業したのが35年前のこと。その頃から、荒削りながらも画期的なインターフェイスを盛り込み、楽しく使いやすいコンピュータを探求してきた。

 誰も考えつかないようなアイデア、それを製品にする執拗さ、奇抜な行動習性など、ジョブズにはいつも物語がついて回る。それに加えて、自分が創設した会社から追い出されたうえ、またそこに舞い戻ったという経緯。

 そして、その後たった十数年の間にiMac、iPod、iPhone、iPadと立て続けに画期的な新製品をヒットさせ、製品とインターネットとコンテンツを結びつけて産業構造自体を揺り動かした。今やアップルの企業価値は、あのマイクロソフトをも追い抜いくほどに拡大した。このすべてがストーリーだ。

 こんなことを成し遂げた経営者は、周りを見回してもあまりいないだろう。もちろん、ジョブズが闘病中であることも、これにドラマティックな要素を付け加えてきた。新製品の発表会では、数時間にも及ぶ細かなプレゼンテーションを自らこなしてきたが、これだけ大きな企業になってもCEO自身がそんなことをやるとは、起業文化盛んなシリコンバレーでも、他に似た例がない。ジョブズの情熱と存在感は、否応もなく人々の心に刻印されてきたのである。