「本当に大切なこと」はいくつかのポイントだけ
ただし、社会科学の研究が誰にでも当てはまるような真理にたどりつくことは、非常にまれです。たとえば「未就学児に音楽のレッスンを受けさせることが知育に役立つか」を知りたいときは、ランダム化比較試験を行うのが定番です。
半数のランダムに選ばれた子どもたちに音楽のレッスンを受けさせ(介入群)、もう半数には受けさせず(未介入群)、音楽レッスンの前後で両方に認識力テストを行います。
こうして得られた結果は、どこまで信頼できるでしょうか?
変数に含まれるのは、「研究者が集めてきた子どもの数」「子どもが選んだ音楽レッスンの種類」「指導する教師」「レッスンの期間」「子どもが練習する頻度と熱心さの度合い」「途中で脱落する子どもの数」「レッスン終了からテストまでの間隔」「使用するテストの内容」「結果に影響する潜在的原因(親の収入とIQ)」など。
それらを分析者がどの程度まで除外するか、結果と過去の研究との信頼度の兼ね合いその他、さまざまなことが考慮されます。
そうしたうえで、たとえ研究結果がくり返し立証されてもなお、自分の子に該当するとは限りません。ある研究から「乳児には1日14時間の睡眠が必要」という結論が導かれても、11時間で足りる子もいれば19時間眠る子もいるのです。
統計的には「中間」を取って最終報告を出すので、該当しない子どもが出てきます。
子どもに個性があるように、親も一人ひとりが違います。
アドバイスに従ったのに望まない結果が出ることもあれば、アドバイスに従わなくても望み通りの結果になることもあります。自分の子どもに効果的かどうかを知るには、実際に試してみるしかないのです。
その意味では、この本は、いわば「道案内」のようなものです。よさそうだと思う道を選んだり、いまの道のままでいいのかを確認したりするのに使ってください。
すべてのアドバイスに従う必要はありません。赤ちゃんが生まれたら、できるだけ肩の力を抜きましょう。
子育てにおいて本当に大切なことは、シンプルです。
一緒にいるときにたっぷりかまってあげる。たくさん話しかける。きっぱり、かつ温かくしつける。たくさん抱きしめる。そして、たくさんの睡眠を取らせてあげる。
そのためのコツが、ここに書かれています。お子さんを「素晴らしい子ども」――頭がよくて、幸せで、社会性があり、情緒が安定していて、道徳的で、好奇心に満ちた、愛される子ども――に育てる基礎づくりに役立てていただければ幸いです。
幸運をお祈りします(お互いに!)。
(トレーシー・カチロー著、鹿田昌美訳『いまの科学で「絶対にいい!」と断言できる最高の子育てベスト55』〈ダイヤモンド社刊〉まえがきより)