ドナルド・トランプ米大統領の関税戦争は、世界の自動車メーカーに合計120億ドル(約1兆8000億円)近い打撃を与えている。これは自動車各社にとって新型コロナウイルス流行以来の大きな打撃だ。だが、恐ろしい現実は、これが始まりにすぎないかもしれないということだ。

 関税措置で発生する継続的なコストの負担に加え、米国や日本、韓国、欧州の自動車メーカーは新たな現実に適応するために、何年もかけて設備の入れ替えやサプライチェーン(供給網)の調整を進めなければならない。メーカー各社は既に、電気自動車(EV)生産用に工場を作り替えるために多額の費用を投じている。

 関税措置を受けて当然出てくる対応は、製品の値上げと米国への生産移転だ。だが、いずれも自動車メーカーが直ちに実行するのは難しく、今後何年もかかる取り組みになる可能性がある。

 世界の自動車メーカーは米国の政治ではなく健全な消費経済を理由に対米投資しているのであり、関税によって変わるのは自動車業界の周辺部分にすぎないと、懐疑派は主張する。

 だが、米政権の通商政策は、自動車を販売する場所により近いところで製造するという業界の流れを加速させている可能性がある。北米、欧州、中国という大きな自動車市場は、規制や技術、消費者の好みの違いによってますます分断されており、このため自動車各社による現地での設計、製造の動きが進んでいる。