インフルエンザの季節だ。予防には、マスク着用と手洗いの徹底を。おつかれ気味なら、漢方薬の補中益気湯(ほちゅうえっきとう)を試してみよう。
補中益気湯は、すでに750年以上の歴史がある名方だ。添付文書には虚弱体質の夏痩せや病後の体力増強に効く、とある。ただし、「インフルエンザの予防」という記載はない。
しかし、臨床医は経験的に補中益気湯の感染防御力を知っており、近年、科学的なメカニズムを裏付ける報告が相次いでいる。
基礎研究を総合すると補中益気湯には、(1)生体の免疫能を増強し感染・重症化を防ぐ、(2)細胞内に侵入した病原ウイルスを分解する「自食作用(オートファジー)」を増強して感染を予防する、という作用が認められている。
特に(2)は、今一番ホットな研究分野といえる「オートファジー」と関連付いたものだから、業界(?)で注目を集めた。
オートファジーは、今年のノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅良典・東京工業大学栄誉教授らが発見したメカニズム。壊れたタンパク質やミトコンドリアを「ごみ袋」に収納、分解し、再生されたアミノ酸を材料に、新しいタンパク質を合成するという細胞内の「リサイクルシステム」だ。
当初は、飢餓に襲われたときに自分の細胞を栄養源とする、究極の「自食」の仕組みと考えられていた。しかし、近年は生命維持に欠かせない新陳代謝や、病原体の排除に大きな役割を果たしていることが判明している。
実際の予防効果については、2009年の新型インフルエンザ流行時に行われた新見正則・帝京大学教授らの報告がある。
成人男女、358人を補中益気湯内服群、非内服群に分けて最大8週間投与した結果、内服群の感染者は1人、非内服群では7人と、内服群で有意に感染率が低かったのだ。副作用は下痢や倦怠感など軽いものだった。
漢方薬は体質に「合う」「合わない」で効き目が違う。補中益気湯を「美味しい」と感じたらOKサイン。お湯に溶かし、舌で味わってから服用を決めるといい。
(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)