「わらしべ長者」（3）
物々交換を何度もしたら税金はどうなる？

鬼ヶ島から財宝を持ち帰った桃太郎を待っていたのは、毎年の確定申告でした。果たしてこの財宝はどう申告したらいいのか、鬼退治に使った「きびだんご」は経費として認められるのか――。
そんな疑問にこたえる新著『桃太郎のきびだんごは経費で落ちるのか？』では、知らないと損をする、でも説明されてもわかりにくい。そんな税金の世界を、誰もが知ってる昔ばなしでシミュレーション。ストーリー仕立てで楽しみながら、税金の知識が身につくと早速評判になっています。
こちらの連載では、本文の中からご紹介してきます。今回は、「わらしべ長者」の3回目になります。（イラスト・佐々木一澄）

「わらしべ長者」の2回目はこちらになります。

物々交換を何度もしたら、譲渡所得はどうなる？

高橋税理士（以下「高橋」）　わらしべ長者さんは、1回の交換のたびに譲渡所得が発生していると考えます。最初の交換、「ミカンの時価-わらしべの時価」を譲渡①としましょうか。

アシスタント小沢くん（以下「小沢」）　さっきの500円-10円で490円の儲け、っていう話ですね

高橋　そうそう。同じようにそれぞれの譲渡所得を求めると、こうなる。

高橋 最後に譲渡①～④で発生した所得を足したものが、最終的な譲渡所得の額になります。

代官 なるほど、物々交換のたびに増えていくのだな。

小沢 面倒くさいなぁ。

高橋 本当はもっと面倒くさいんだよ。厳密に言うと、Aを譲渡してBをもらうときの譲渡所得は「交換したときのBの時価－取得価額（Aを入手した時点の時価）」で計算するんだ。わらしべ長者は全ての交換を1日で済ませているから、さっきの表では簡単にしているけど。

小沢 なんかよくわかんないので後で解説してください。

代官 そういえば、譲渡所得は生活用品には課税しないんだったな？　ミカンは生活用品とみなせるのではないか？

高橋 お、そうでした。手放すものが生活用品だったら非課税になります。時代的に反物はぜいたく品な気もするので、そのあたりをさっきの表に付け足すと……。

代官 馬を手放した場合も課税されるのか!?

小沢 だって生活用品じゃないですもん。

代官 我々の世界では生活に密着した交通手段なのだが……。

高橋 こちらの世界だと、例えば自動車は生活に密着した交通手段なんですが、「生活に通常必要ではない資産」として課税対象になっているんです。同じように考えると、馬は課税対象になるかと……。

代官 そうなのか。なんだか釈然としないな……。

小沢 でも、わらしべから税金を取れるんだからいいんじゃないですか？

代官 そうだった！　えーと、譲渡③と④ではそれぞれ譲渡所得が出ているわけだから……。

高橋 特に屋敷の時価は高そうですから、相当な額の譲渡所得になりそうですよね。そうなれば、所得税もそれなりにかかるでしょう。

代官 ふむふむ……。そうとわかったら、あのベラベラ回る舌を黙らせてやるわい……！　先生、小沢殿、世話になったな。それでは失礼する。

高橋 あ！　ちょっと待ってください。

代官 なんだ？　まだ何かあるのか。

高橋 代官さんもわらしべ長者さんも、譲渡所得よりもっと計算しやすい税金を忘れているんですよ。

小沢 計算しやすい税金……？

代官 なんだそれは。もったいぶらずに教えてくれ。

高橋 固定資産税です。

全員 あ……！

高橋 わらしべ長者は土地・建物を資産として所有しているんですから、当然、固定資産税が課税されます。詳しい評価額はそちらの世界のことなのでわかりませんが、立派なお屋敷ということは敷地もそれなりに広いでしょうから……。

代官 ……ごっそり取ってやるわい！

小沢 行っちゃった……。あのぉ先生、ちょっと気になることがあるんですけど。

高橋 なんだい？

小沢 わらしべ長者って、物々交換で屋敷まで手に入れましたけど、現金って持ってるんですかね？

高橋 あぁ……。持ってなさそうだよね……。

小沢 ちゃんと全額納税できるのかなぁ……。

（次回へ続く）