280万部のベストセラー『もしドラ』待望の第2弾、『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『イノベーションと企業家精神』を読んだら』(以降『もしイノ』)を記念した特別対談です。著者の岩崎夏海氏と、経営学者の入山章栄氏が『もしイノ』と世界の経営学について語り合います。
入山氏の著書、『世界の経営学者はいま何を考えているのか』は経営学書として異例の大ヒットを記録。11月末に発売された新著『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』もすでに大きな話題を呼んでいます。前著では「経営学者はドラッカーを読まない」として話題になりましたが、そこにはどのような背景があったのでしょうか? また、『もしイノ』と『世界の~』の隠された共通点が明かされます。
(構成:田中裕子、写真:宇佐見利明)
なぜ、世界の経営学者はドラッカーを読まないのか?
入山 突然ですが、僕は経営学者ではありながら、経営そのものに強い関心があるわけではないんです。どちらかというと自分で深く考えることが好きで、それを書いて世に出すことに関心があって。だから学者になったのだと思います。その意味で、今日は岩崎さんのように文章を生み出す方とお話できてうれしいです。
岩崎 こちらこそ、お会いできて光栄です。経営学者の方から直接作品についてのお話をうかがえる機会はなかなかありませんから。
入山 そうだ、先に言っておかなくちゃ……。『世界の経営学者はいま何を考えているのか』で僕は、「ドラッカーは、世界の経営学者には読まれていない」と書きました。それがドラッカー好きの日本人の間で話題にもなって。でも、決して「読むな」とか「読む必要はない」と言っているわけではないんです。知り合いのアナリストも「入山さんの本はよかったけれど、やっぱり自分は経営者にドラッカーを薦めます」と言う人もいますしね。
岩崎 ええ、わかります。
早稲田大学ビジネススクール准教授。慶応義塾大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所を経て、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.を取得。同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授。2013年から現職。『世界の経営学者はいま何を考えているのか』(英治出版)。2015年11月に3年ぶりの新刊『ビジネススクールでは学べない 世界最先端の経営学』(日経BP社)を刊行。
入山 たしかに海外の経営学ではドラッカーを土台にした研究はされていませんし、僕自身、ドラッカーの著作を読んだことはないんです。今回も岩崎さんの本は読んだけど、ドラッカーの本そのものはあえて読まないで来ました(笑)。ただ、いくら学者が「ドラッカーは本当の経営学ではない!」と言っても、「本当の経営学」とドラッカー、どちらがビジネスパーソンに影響を与えているかといえば、後者なんです。これは、アメリカも日本も変わりません。
岩崎 アメリカで言えば、『もしイノ』でも取り上げた『ビジョナリー・カンパニー』(日経BP社)のジム・コリンズも同じような扱いになっているんですか? 学者よりも、現場の人たちに支持されるという。
入山 まさに、おっしゃるとおりです。僕たち学者は、ひたすら「なぜ(Why)?」を積み上げて理論を考えます。でも、ドラッカーはそうではない。たくさんの企業を調査して、経営者と会って、自分のなかでまとまったものをそのまま文章に乗せて書いています。だからこそ、彼の本には「読ませる力」があるのでしょう。学問は、いくら理論的に正しくても、その力がないんですよ。