「例えば、富士山の山麓には利用されなくなった保養所や古びたホテルなどがたくさんありますが、こうした人里離れた山道に、たびたび中国人を載せた車が行き交うのも、投資先を探す中国人が増えているためです」と唐輝氏は語る。

 中国資本によるホテル経営の増加とその賛否については、以前から日本でも話題となるところだが、今回取り上げるのはもうひとつの新たな傾向だ。ここにきて、中国資本によるホテル投資の動機は「インバウンド狙いではなくなった」というのだ。

1億円の物件を10億で…
盛られた価格に手を出す理由

「一人5000万円、投資家を5人集めて出資させれば、2億5000万円のホテルが購入できる」と唐輝氏は前置きし、会社の株主がそれぞれ出資するプロジェクトとしての投資が増えていることを示唆する。取引事例の中には転売も見られ、金額は高額化する傾向もある。

「1億円で売り出された富士山麓の物件を中国資本が3億円で購入し、さらにそれを10億円で転売する。今はそれでも買い手がつく状況なのです」(同)

 言い値で購入というのは尋常ではない。中国人の不動産投資といえば「言い値で買わない」どころか、「半値以下にまで買い叩く」などのハードネゴに徹するケースが多いからだ。

「10億円」だと吹っ掛けられても、それでも中国の主要都市に比べて安いためでもあるだろう。あるいは、それが2つとない希少物件なのかもしれない。「10億円でも構わない」と思わせるほど、中国人の間でホテル投資は最高潮に達していると解釈することもできる。

 だが、「彼らの購入動機はもはや『儲け狙い』ではない」と唐輝氏が示唆するように、投資家の心理にあるのは「とにかく人民元を海外に移転させたい」という一念だ。

 今、中国人投資家の頭には、手持ちの人民元を海外に移すことしかない。彼らもまた日本の観光資源に魅了された人たちでもあるが、それ以上に切実なのは「人民元の価値の目減り」だ。ホテル投資の中には、資金の海外移転のためにわざわざ仕立て上げたプロジェクトもある。

「人民元を持っていると危ない」――上海から聞こえてくる富裕層たちのささやき声だ。「最悪とはいえないこの時期だからこそ、一気に海外移転を成功させたい」(上海在住の富裕層)、そんな思いが強まっている。