治療費が高額になりがちな「がん」。しかし、それだけでなく、1年間で多額の医療費がかかったら(それも家族で!)、確定申告してみましょう。税金が戻ってくる優遇があります。日本では公的な保障があり、多くの人を支えていますが、それらは申請しないともらえないものがほとんどです。ぜひ知っておきたいものです。
現役の国立病院の内野三菜子医師が、がんの主治医に聞きにくいようなことや、知っておいたほうがいいことなどを解説した本『身近な人ががんになったときに役立つ知識76』の中では、治療や病院選びのほかに、こうした公的な保障や制度についても詳しく解説しています。
この連載では、その本の中から気になるところを、再編集して紹介していきます。

家族単位で医療費が1年で
10万円以上かかっていたら申告を!

内野三菜子(うちの みなこ)
東京都出身。国立国際医療研究センター国府台病院 放射線治療室長。聖マリアンナ医科大学放射線科、埼玉医科大学国際医療センター放射線腫瘍科を経て、カナダ・トロントのプリンセスマーガレット病院放射線腫瘍科にて、日本人初のクリニカルフェローとなる。並行してトロント大学オンタリオ教育研究所(大学院)医学教育学にて修士号取得。帰国後、国立国際医療研究センター病院を経て、現職。日本医学放射線学会専門医(放射線治療)、がん治療認定医

1年間の医療費が、家族で10万円を超えたら?

 がんをはじめとした病気で医療費がたくさんかかった場合は、健康保険などの社会保障だけではなく、税金面でも優遇が受けられます。毎年2月16日~3月15日に行われる確定申告は、医療費がたくさんかかった人には「医療費控除」で払いすぎた税金を取り戻すチャンスです。

 1年間(その年の1月1日~12月31日まで)に支払った家族みんなの医療費が、10万円(総所得金額が200万円未満の人は総所得金額の5%)を超えると、医療費控除ができて支払った税金の一部が還付されます。

 サラリーマンは会社の年末調整で一応の税額が決まっていますが、医療費がかかったかどうかは人それぞれ。会社では対応しきれないので、個別に確定申告をして、一度納めた所得税を払い戻す仕組みになっています。

 控除の対象になるのは、医療費から一律に10万円を差し引き、さらに民間保険などから補てんされたお金があれば、それも差し引きます。これに、自分の所得税率(所得に応じて5~45%)をかけたものが、還付金の目安になります。

 たとえば、課税所得300万円で、所得税率10%のAさんの還付金を計算してみましょう。Aさんは肺がん治療で、年間100万円の医療費を支払い、民間保険から30万円の給付金をもらいました。このケースでは、医療費控除の金額は60万円なので、還付金はその10%の約6万円になります。
 医療費控除は、納税者本人の医療費だけではなく、「生計を一にする」家族みんなの医療費をまとめて申告できます。下宿している子ども、仕送りしている高齢の親の医療費も対象です。