「がん」になったら、仕事はどうしよう、多額の治療費がかかってしまうのでは…と、心配する人も多いと思いますが、日本では公的な保障があり、多くの人を支えています。しかし、それらは申請しないともらえないものがほとんど。
現役の国立病院の内野三菜子医師が、がんの主治医に聞きにくいようなことや、知っておいたほうがいいことなどを解説した本『身近な人ががんになったときに役立つ知識76』の中では、治療や病院選びのほかに、こうした公的な保障についても詳しく解説しています。
この連載では、その本の中から気になるところを、再編集して紹介していきます。
1ヵ月の支払いが高額になると使える
「高額療養費制度」は覚えておきたい!
東京都出身。国立国際医療研究センター国府台病院 放射線治療室長。聖マリアンナ医科大学放射線科、埼玉医科大学国際医療センター放射線腫瘍科を経て、カナダ・トロントのプリンセスマーガレット病院放射線腫瘍科にて、日本人初のクリニカルフェローとなる。並行してトロント大学オンタリオ教育研究所(大学院)医学教育学にて修士号取得。帰国後、国立国際医療研究センター病院を経て、現職。日本医学放射線学会専門医(放射線治療)、がん治療認定医
Q がんになったときに使える
公的な保障とは?
この連載で第9回がんの治療はどのくらいかかるのか、という記事を掲載しました。
今回は、公的保障のことをご説明していきます。
国民皆保険の日本では、誰もがなんらかの健康保険に加入しています。そして、病気やケガをしたときは健康保険を使って治療を受けます。病院や診療所の窓口で健康保険証を見せると、かかった医療費の一部を負担するだけで治療を受けられるのは、この制度のおかげです。
現在、医療費の自己負担割合は、小学校入学前の未就学児が2割、70歳未満が3割、70~74歳の人が2割、75歳以上が1割です。
70歳以上の高齢者の人も、現役世帯並みの収入がある人は3割を負担します(※70~74歳の人は、経過措置があります)。
自己負担するのは医療費の1~3割でよいとはいえ、がんなどを患って医療費が100万円、200万円と高額になってくると、一部負担金を支払うのも大変になります。でも、心配はいりません。
健康保険には、医療費が家計の過度な負担にならないように配慮した「高額療養費」という制度があるので、最終的に患者さんが負担するのは1~3割の自己負担分よりもさらに低くなるのです。
高額療養費は、1ヵ月に患者さんが自己負担する医療費に上限額を設けたもので、70歳未満の人の限度額は、所得に応じて5段階に分類されています。
例えば、年収約370万~770万円(標準月額報酬28万~50万円)の一般的な所得の人の限度額は、【8万100円+(医療費ー26万7000円)×1%】。
1ヵ月の医療費が100万円だった場合は、8万7430円が限度額です。
つまり、がんの治療で1ヵ月に100万円かかっても、自己負担するのは約9万円でよいということです。
また、年に3回以上高額療養費の支給を受けている場合、4回目以降は自己負担限度額が低くなるという多数回該当などのオプションによって、治療が長引いた場合の負担軽減策もあるので、保険診療の範囲内であれば青天井で医療費がかかるという心配はありません。