未曾有の難局に日本社会が直面するなか、4年に1度の統一地方選が始まる。3月24日に東京都知事選などが告示され、4月10日の投票日に向けて選挙戦がスタートする。さらに、市区町村長選など後半戦の投票が4月24日に予定されている。

 だが、東日本大震災による被害は甚大だ。9千人余りの方が亡くなり、約1万8千人余りの方が行方不明となっている。危うく難を逃れ、過酷な避難生活を強いられている方は約31万人にものぼる。地震に津波、さらに原発事故と停電が加わり、被害は広範囲かつ長期間に及ぶ。壊滅的なダメージを受けた自治体も少なくなく、「選挙どころではない」というのが有権者の心情ではないか。

 政府はこうした過酷な現実を直視し、統一地方選を延期する臨時特例法を制定した。この特例法は、被災自治体に限定して投開票日を2カ月から6カ月の範囲で延期するものだ。

 総務大臣が各自治体の選挙管理委員会の意見をふまえ、延期する自治体を指定する。そして22日、片山善博総務大臣は岩手県知事選と岩手、宮城、福島三県の県議選などの延期を指定した。延期幅は未定で、今回は1次指定分だという。

 国会審議では「全国一律での延期」を主張する意見も出たが、政府は「選挙は民主主義の一番の基礎であり、優先して考えるべき」(片山総務大臣)とし、地域限定を譲らなかった。

 確かに、選挙は民主主義の根幹をなすもので、予定通りに実施することが大原則だ。首長や議員には任期があり、それを超えての在任は正統性を欠くことになるからだ。選挙の延期は、選挙を厳正に行うことが困難な場合にのみ認めるべきだ。

 換言すれば、有権者(主権者)が自らの意思で投票を自由に行えうる環境にあるかどうかが、ポイントだ。その際、問題になるのは事務方の準備体制や交通や通信といった物理的なことだけではないはずだ。

 自らの代理人としてこれからの4年間を託しうる人物は誰なのか、有権者一人ひとりが冷静に判断できる環境にあるかどうかも重要だ。そして、その判断材料が有権者にきちんと提示されているかどうかもだ。

 大震災から十日余りたった今、日本社会の状況はどうか。誰もが心身に大きな痛手を受け、苦しんでいる。震災による直接的な被害を免れた地域の住民も、冷静に選挙に臨める環境にはいないのではないか。

 また、候補予定者の中から選挙カーや街頭活動を自粛する動きも出ている。安心できる地域社会を再構築するために選挙の先送りを被災地に限定せず、考えるべきではないか。