「ヘリマネなら預金封鎖」はハッタリ

ヘリマネ政策は、政府を経由するかたちではあるが、「マネーを市場に行き渡らせる政策」という意味では、金融緩和と同じようにインフレ率を上昇させる作用を持つ。その意味で、これもまた脱デフレを実現し、経済状態を回復させていくうえでは、望ましい政策オプションだと言えるだろう。

実際、リーマンショック後に世界的な経済停滞が長期化するなかで、各国当局も中央銀行による国債購入の拡大というかたちで、一種のヘリマネ的政策を拡張させてきた。その結果、これが景気回復を後押しする現実的な政策であるとの認識は、世界的にかなり広がっているのが実情である。

それにもかかわらず、日本のガラパゴス経済メディアでは、ヘリコプターマネーという刺激的なワードに脊髄反射するだけの稚拙な議論が続いている。日銀がストックベースで40%前後の国債を購入しているいま、財政ファイナンスとしての広義のヘリマネ的政策は、すでに日本でも行われていると言えなくもないし、実際に円安・株高・雇用増といったポジティブな結果を生んでいる。

もはや問題は、それを拡張するかどうかという次元に来ているにもかかわらず、いまだに新聞には「政府と日銀の危険な綱渡り」などという後ろ向きな見出しが躍っている。

ヘリマネ批判をする人が抱いている懸念は、これによってインフレ率が跳ね上がり、日銀によるコントロールが利かなくなること、いわゆるハイパーインフレという事態だろう。

彼らの脳裏にあるのは、「戦前の高橋是清大蔵大臣が主導した日本銀行の国債引き受けが、日本に深刻なインフレと預金封鎖(金融機関から預金を引き出せなくなる状態)を引き起こした」というストーリーである。じつはこれ自体が歴史的事実の歪曲に過ぎないのであるが、こうした通説を広める一部の有識者がいるせいで、「ヘリマネ政策=金融システム破綻」という連想を誘うメディアが増えているようだ。

もちろん、日本がヘリマネ政策を本格化させれば、インフレ率は相応に高まるだろう。ただ、インフレ目標をはじめとしたインフレ率を制御する仕組みは、戦前とは比べものにならないほど整備されている。現代の先進国と言われている国において、制御不能なインフレが起きる可能性はきわめて低いというのが実情だ。

それにもかかわらず、「預金封鎖」のようなワードで脅しながら、一般の人々の危機感を不必要に煽るようなメディアのやり口はまったくフェアではない。以前の連載で見た「野菜高騰により消費低迷」と同様、これも身近な連想の働きやすい「預金」をフックにした印象操作である。ヘリマネというフレーズを前に思考停止することなく、その現実的効果に目を向けることが必要だ。

※参考
ノーベル賞経済学者も認めた「日本の消費増税」のデタラメな失策ぶり
https://diamond.jp/articles/-/116545