いまはまだ「擬似ヘリマネ」に過ぎない

2016年にヘリマネ政策がメディアで取り沙汰されるようになったきっかけは、7月10日の参議院選で自民大勝を果たした安倍首相が、追加の大型財政政策を決断したことだろう。

これは総額28.1兆円、戦後3番目の規模の財政政策である。これを受けて経済メディアは、「ヘリマネとの境界線を市場は不安視」といったフレーズとともに、この財政政策を批判的に取り上げた。

じつは2015年後半から、われわれ海外のプロの投資家のあいだでは、「次にヘリマネ政策を展開/拡張するのはどの先進国なのか」の議論が繰り返されており、金利・為替市場に影響を及ぼす最重要テーマとして注視されていた。そのため、安倍首相が決めた財政拡大は、世界中の投資家の注目を集めるところとなった。2016年前半のマイナス金利など、日銀の迷走によってデフレ懸念が高まっていた日本で、これがトレンド転換の節目になるかもしれないと期待されたわけである。

しかし、投資家の視点で言わせていただけば、これはまだ明確な政策転換ではなく、あくまでも「擬似ヘリコプターマネー」である。「政府の財政支出拡大で国債発行が増えた分を、中央銀行が明示的に購入することでファイナンスすること」―現代的なヘリマネ政策をそう定義するとすれば、今回の規模ではまだ本来の意味でのヘリマネとは呼べない。総額28.1兆円は大規模とはいえ、追加の国債発行をせずとも、税収拡大や余剰金などでやりくりできる水準である。

また、総額を膨らませているのは、財政投融資や中小企業向け融資の拡大である。たとえば、リニアモーターカー事業への投融資を拡大させても、この事業自体は将来的にはいずれ進捗する。前倒し的な融資が好況の呼び水となる側面はあるが、総額で見れば追加的な財政支出とは言えない。また、政府系金融機関から企業への融資枠を増やしても、企業にお金を貸しただけではGDP押し上げには直結しない。

やはりGDPを増やすためには、政府自らが投資をするか、消費を刺激するお金の使い方をしていく必要がある。しかし、そうした支出の規模は28.1兆円のうち、7.5兆円程度である。さらにそのなかでも、公共投資を除いてしまうと、俎上に載っているメニューは数千億円レベルの小規模な政策が目立つ。2014年の消費増税で大きく落ち込んだ個人消費を再び持ち直させるためには、限界消費性向が高い(所得の増分のうち消費に回す割合が高い)低所得者向けに大規模な給付金を導入するなど、総需要を高める大胆な方法が望ましいと思うがどうだろうか。