世界的な「財政政策シフト」の予兆

無論、消費増税以来、2015年に入ってからもずっと抑制的な財政政策が続いてきたことを思えば、今回の追加財政政策は大きな一歩である。私が試算したところでは、これには0.6%ポイント程度のGDP押し上げ効果が見込めるからだ。これに先立つ6月1日には、「2017年4月の消費増税」に先送り判断が下されたことも忘れてはならない。

しかし、これ単独では本格的に日本経済を復活させるほどのパワーはなく、ぎりぎり最低ラインの手当てという印象である。日銀が長期金利ゼロ誘導を導入したいま、本格的なヘリマネ政策に打って出る準備は十分に整っている。ここで安倍政権がどう出るかは、政治判断によるところも大きいだろう。

最後に、もう一つ注目しておきたいのが、2016年5月末に行われたG7(伊勢志摩サミット)である。このとき、安倍首相は議長国のトップとして「主要国が財政出動で協調し、世界経済を支える」というビジョンを掲げ、各国への問題提起を行った。参院選後の7月に安倍首相が追加の財政政策を決めたのは、まさに「有言実行」を自ら示した格好だと言えるだろう。

G7のような会合の場で各国の財政政策が決まることはまず期待できないが、日本が「財政政策で経済成長を支える」という方向性を各国に先んじて提示した意義は大きかったのではないか?米国にトランプ大統領が誕生したいま、「金融政策から財政政策へのシフト」は現実味を増しているし、トランポノミクスの本質はそこにあると私は見ている。これが何を意味するのか、これを次回以降の連載で見ていくことにしよう。

[通説]「ヘリコプターマネーは怖い。超インフレによる預金封鎖」
【真相】否。不安煽るデマ。世界で検討されるまっとうな政策。

村上尚己(むらかみ・なおき)
アライアンス・バーンスタイン株式会社 マーケット・ストラテジスト。1971年生まれ、仙台市で育つ。1994年、東京大学経済学部を卒業後、第一生命保険に入社。その後、日本経済研究センターに出向し、エコノミストとしてのキャリアを歩みはじめる。第一生命経済研究所、BNPパリバ証券を経て、2003年よりゴールドマン・サックス証券シニア・エコノミスト。2008年よりマネックス証券チーフ・エコノミストとして活躍したのち、2014年より現職。独自の計量モデルを駆使した経済予測分析に基づき、投資家の視点で財政金融政策・金融市場の分析を行っている。
著書に『日本人はなぜ貧乏になったか?』(KADOKAWA)、『「円安大転換」後の日本経済』(光文社新書)などがあるほか、共著に『アベノミクスは進化する―金融岩石理論を問う』(中央経済社)がある。