二人分でも1元に満たないわずかな入園料を払って公園に入り、肩を並べて遊歩道を歩いた。

 園内には、まるで植物園のように様々な樹が植えられていたが、槐や桐、ポプラなどといった広葉樹は冬のために裸体を晒しており、寒々とした景色であった。しかし、隆嗣の胸は逆に熱が膨らみつつあったし、立芳も白い息を絶え間なく放出しながら色々な言葉を差し出してくれた。

「日本の冬もこれくらい寒いの?」

「東京の冬も結構寒いけど、故郷の長崎のほうが上海の気候に近いかな」

「あなたの故郷は長崎なの? あの原子爆弾が落ちたところでしょう……?」

「へえ、よく知ってるね」

「もちろん有名よ。アメリカが戦後の覇権獲得のために行った非人道的攻撃よね。授業で、広島と長崎の悲惨な犠牲者の写真を見せてもらったことがあるの……。そうだ、綺麗な公園に建っている大きな男性の像も見たわ。印象的で覚えているの。あれは長崎でしょう?」

 自分に向けられた好意が彼女の口を休みなく働かせ続けている、隆嗣はそう信じた。

「平和祈念像というんだ。長崎平和公園というところにあるんだけど、僕の家はそこから歩いて数分のところなんだよ」

「本当? なんだか不思議な感じね」

「どうして?」

「だってそうでしょう? 私が上海で見た1枚の日本の写真、そのすぐそばに、あなたが住んでいたなんて……なんか運命的よね」

 どんな写真を誰から見せられて話をしているのか見当も付かないが、運命的という言葉には隆嗣も喜んで賛同したい。

「立芳さんは、上海の生まれですか?」

「いいえ、私の故郷はハンジョウです」

「ハンジョウって、浙江省の杭州?」

「ええ。知ってるの?」

「もちろん、有名だよ。たしか『天に天堂(天国)あり地に蘇杭ありって』って言うんだよね。蘇州と杭州は素晴らしい所だって意味」

「よく勉強しているのね」

「実は受け売りなんだ。語学クラスの老師(先生)が蘇州出身で、何度も聞かされた」