隆嗣が水を向けると、すかさず岩本が宮崎に手を差し出した。

「それでは宮崎部長からどうぞ」

 このような場面で躊躇しては見苦しいとわきまえている宮崎は、女性たちを一巡見渡すと、長身でショートカットの娘を指差して手招きした。

「次は木村課長、お願いします」

 まだ戸惑った表情のままでいる木村は、岩本の誘いに尻込みする。

「いや、私はこういうのは苦手で……。岩本さんからお先にどうぞ」

 そんな木村の態度を苦い顔で一瞥した宮崎が、低い声を浴びせた。

「おいおい、ここは中国じゃないか。郷に入っては郷に従う、つまらない事を言っていないで、さっさと決めろよ」

 上司に背中を押された木村は、佇む彼女たちを改めて見較べ、なおも時間をかけてようやく選ぶと、女性にではなく岩本に向かって小声で伝えた。

「じゃあ、右端の女性で」

 選んだのは清楚風小姐だった。残った茶髪の娘が岩本に付き、隆嗣が店員を呼んで増えた人数分の椅子を持ってくるよう指示した。もちろん男性たちの間に一脚ずつ置き、男女が交互に並んで座れるようにして、それぞれが選んだ女性を隣に座らせる。

 こういう風に女性を選ばせると、如実に性格が出るものだ。一度心理学者に分析をさせたら面白いだろうな、表情とは裏腹に心は冷めている隆嗣がそんなことを考えていると、隆嗣と清義の間にレイカママが来て座った。

 ニヤニヤしながら事の成り行きを見ていた清義は、更に羽振りのよさを発揮して、女性たちのために追加で鮑を4つ注文する。

 若い女性たちの片言の日本語を頼りに、それぞれが日中交流に精を出し始めたので、隆嗣も通訳や仕事の話から解放されて落ち着くことができた。お客たちも緊張を解いて交流から友好へと発展していることを確認し、テーブルの上に置いていたマルボロの箱から1本取り出して咥えた。すかさずレイカがライターを差し出して火を点ける。

「ありがとう。すまないね、無理を言って」

「それはこちらのセリフよ、毎度ご贔屓にしてくれてありがとうございます」