中国語禁止と言った舌の根が乾かぬうちに、やはり意思疎通が一番簡単な言語で話す。

「景気はどうだい?」

「悪いわ。今の大連は、日本人向けのクラブが増えすぎて競争が激しいのよ。そのくせ日本は不景気でしょう、出張で来る人も減っているみたいだし、駐在員は財布の紐が固くなっているわ。毎日開店休業状態よ」

「騙されないよ。やり手の君がいて、開店休業なんてありえない」

 するとレイカは、挑むような目で反駁した。

「あら、本当よ。それじゃあ、伊藤さんの上海のお店はどうなの?」

「さあ、どうなんだろう。確かに売上げは落ちていると言っていたな」

「羨ましいわ、趣味でクラブを経営しているお金持ちが……」

「別に趣味でやっているわけじゃないさ」

 隆嗣は横を向いて口から紫煙を吹き出し、その拍子に清義がこちらへ視線を向けているのに気付いた。何を言いたいのか察した隆嗣が頷いて応えると、清義は席を立って戸口脇に控えている部屋付きの店員のもとへと歩いて行く。勘定の精算に行ったのだ。

「それでは皆さん。食事はおひらきにして、席を移して二次会をやりませんか。そろそろ『クラブひまわり』へ行かないと、私がレイカママから足を蹴られそうです」

 隆嗣が宣言すると、カップルごとにそれぞれが身繕いを始めた。支払いを終えた清義がそのままドアの前で待っており、部屋を出て行く背広組の3人に両手を差し出し握手を求めた。そして、最後に部屋を出ようとした隆嗣の肩を叩いて感謝を示す。

「隆嗣、クラブへ行くんだろう。俺はどうしようか?」

「いや、2軒目まで付き合ってもらわなくてもいいよ」

「まあ、彼らも俺がいない方が羽を伸ばして楽しめるだろうからな」

 清義が歯を見せて笑った。